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トップ >  氷河・雪氷圏辞典 (5th Edition)

Last Updated: 2013.8.4  (収録用語数:151+25+5+5)
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アイスアルジー (ice algae)
Photo 131
 

Photo 131
海氷の底部または内部に付着し繁殖する藻類のことである。海氷が割れて氷の底部が水面に現れると、アイスアルジーの繁殖によって色づいた氷を目にすることができる。写真(上)は北海道サロマ湖のアイスアルジーによって色づいた海氷、(下)はそのアイスアルジーの顕微鏡写真である。アイスアルジーは一般に数十マイクロメートルの小さな藻類で、分類的には珪酸質の殻をもつ珪藻の仲間が多い。海氷底部もしくは氷中のブラインの中で、氷を透過した太陽光をつかって光合成により繁殖する。海氷のないときには、海中を漂う植物プランクトンとして生活している。南極、北極の海氷域に広くみられ、日本でもオホーツク海やサロマ湖の海氷で繁殖することが知られている。寒冷な海域の生態系の重要な一次生産者であり、北洋の豊富な水産資源を支えているとも言われている。なお、氷河や積雪上で繁殖する淡水生の雪氷藻類(スノーアルジー、snow algae)とは種類は全く異なる。ただし、氷河の氷の上で繁殖する藻類をまれにアイスアルジーと呼ぶこともある。(N.T.)
アイスバーン (icy road/Eisbahn)

Photo 234
道路上の圧雪やスキー場の踏み固められた雪の表面が少し融解し、その後再凍結してできた氷の面。道路の雪氷では、氷板や氷膜と言う。圧雪に比べて硬度が非常に高いため、車両やスキーの走行によって轍(わだち)や溝ができ難い。ドイツ語のEisbahnは、アイススケートリンクを指す。したがって、氷板を意味するアイスバーンは和製独語。(R.N.)
アイスフォール (icefall)

Photo 48
氷河の中で周囲に比べて著しく傾斜が急な部分。アイスフォール地帯では、流動が速く、クレバスやセラック(氷塔)が多く発達する。大きな氷河では、上流の積雪域(涵養域)から下流の裸氷域(消耗域)の境界付近に見られることが多い。急峻な岸壁に形成される氷河(懸垂氷河と言う)では氷河全体がアイスフォールの形状を示すことがある。写真は、パタゴニアのヒャーデス山(Cerro Hyades, 3078m)の南斜面であり、ほぼ全域にアイスフォールが見られる。アイスフォールからは、しばしば氷雪崩(こおりなだれ)が発生する。アイスフォールの和訳は氷瀑または氷滝となるが、これらは凍った滝を指すことが多いので、氷河の場合はカタカナ表記のほうが望ましい。(R.N.)
アイスレーダ (ice radar/ice-penetrating radar/radio-echo sounder)

Photo 80
電波を氷河や氷床に向けて照射し、氷河氷床内部やその底面の観測を行う装置。1950年代後半に南極氷床上の基地からレーダを用いて上空100km程度にある電離層の観測を行っていたところ、ごく近いところからも電波が跳ね返ってきていることが観測された。この事実から、電波が氷中を透過することが広く知られるようになり、アイスレーダの開発が進んだ。用いられる電波はAM/FMラジオに使われる低周波から携帯電話に使われるマイクロ波近傍まで、幅広い。氷の基盤からの強い電波の反射は、氷河や氷床の厚さ測定に用いられる。また、氷内部からも層状のエコーが観測され、これは等年代層として解釈されている。電波の往復時間だけでなく、電波の反射強度も計測されており、これは主に反射面やその経路の特性を把握するためにも用いられている。例えば、氷・基盤境界面が濡れているか、乾いているかといった情報を広域で取得するには、アイスレーダが最も有効である。 (K.M.)
青氷 (あおごおり、blue ice)

Photo 160
青または濃い青色に見える氷のこと。特別な定義がある専門用語というわけではなく、氷河や海氷や氷山等の表面や側面、割れ目や洞穴(写真)の中が青い場合に青氷とか青氷帯などという。氷が青く見える理由は、光の波長による氷の吸収係数の差による。氷の結晶は、可視光線に対してはほぼ透明な物質であるが、純粋な氷は0.7マイクロメートル(赤)の光を0.4マイクロメートル(紫)の光より約1桁多く吸収する。したがって、大きな氷の塊を透過した白色光は徐々に赤色が減少して、次第に青い波長の光のみになる。氷河の表面に入射した太陽光が青くなるまでには、数mから十数mの透過距離が必要である。光のみちのりがこれよりはるかに長いと、全ての光が吸収されて暗くなり、一方小さな氷塊は青くはならない。氷河の側壁やクレバスの中は、表面から入った光が深部に達する前に横へ出てくるので、より鮮やかで明るい青に見える。
 氷が多くの気泡を含んでいる場合は、それらの気泡にて光の反射、屈折が繰り返され、全ての波長を含む光が戻ってくるので、白く見える。これは、雪が白く見えるのと全く同じ現象である。また、氷に土砂や小さな岩屑を含んでいると、その不純物が光を吸収して、黒くなる。したがって、氷河の氷が青く見えるのは、地域、季節、天候にはよらず、不純物の有無、気泡の多少、氷塊の大きさが、青いか否かを決定する。氷も水(H2O)でできているので、湖や海が青いのと同じ理屈である。光が分別されるためにはある程度の距離が必要なので、浅瀬や深海は青くならず、程ほどの深さで、不純物(浮遊粒子)の少ない湖や海は鮮やかな青となる。なお、空が青いのは全く別の原理(レーリー散乱)である。(R.N.)
赤雪 (あかゆき、red snow)

Photo 132
赤い色素をもつ微生物が積雪表面で大繁殖し、雪の表面が赤く見える現象、またはそのような雪のことをいう。この微生物は、雪氷藻類という光合成で繁殖する藻類の仲間である。春から夏にかけての融雪期に現われる。日本の高山域をはじめ世界各地の積雪にみられるが、とくに北アメリカで顕著である(写真:アラスカ、ハーディング氷原)。赤雪の現れる条件は、積雪上に藻類の胞子が存在することと繁殖のための栄養塩や水分などの条件が整うことであるが、詳しいことはまだわかっていない。赤雪の雪氷藻類は、多くの場合、クラミドモナス・ニバリス(学名)、もしくはそれに近縁な緑藻の仲間である。赤い色素は、アスタキサンチンというカロチノイドの一種で、積雪上の強い紫外線から細胞内を守る、いわば日焼け止めの役割がある。藻類の繁殖条件や種類によって、その藻類細胞のもつ色素の量は異なる。藻類細胞の色によって、緑色になる緑雪、黄色っぽくなる黄色雪など、さまざまな色の雪が現れることもある。 なお、北陸地方の一部では、中国からの黄砂がまざって茶から赤っぽくなった雪のことを赤雪と呼ぶこともある。尾瀬ケ原の残雪に現れるアカシボは主に酸化鉄の色で、土壌中の鉄分が積雪下を流れる融雪水によって積雪表面にでてくる現象で、藻類など多種の微生物が含まれていることが明らかになっているが、純粋な藻類による赤雪現象とは異なる。(N.T.)
圧雪 (あっせつ、compacted snow)

Photo 233
機械的に圧縮された積雪。特に、道路に積もった雪が自動車の走行により、あるいはスキー場の雪が雪上車により圧密された人工的な圧縮雪を指す。新雪でも、1回の車両の走行により400 kg/m3程度の密度の圧雪が生成される。その後、雪粒子間の結合が進み(焼結)、硬い圧雪に変化する。繰り返しの荷重により約550 kg/m3の密度へ変化し得る。さらに、融解水の再凍結がともなうと750 kg/m3程度の硬い高密度の圧雪となる。圧雪は、積雪地域にて最も標準的な道路上の雪である(写真)。圧雪が融解して水を多く含むとスラッシュ(slush)となり、圧雪の表面が少し融けて再凍結するとアイスバーン(Eisbahn)と呼ばれる状態となる。なお、compacted snowは、しまり雪をも指し、その場合は新雪が自然の状態で圧密、焼結した積雪である。(R.N.)
霰 (あられ、graupel)

Photo 229
直径が2〜5mm程度の球形の白っぽい氷の粒。雪結晶の国際分類の一種。雲の中で、雪結晶または凍結水滴に過冷却水滴の雲粒(うんりゅう)が付着、凍結して成長する。日本海側の地域では、雪の降り始めのときとか、にわか雪とか、かなりの頻度で霰が降る。地面に落ちると、20〜30cm程度跳ね返ることもある。寒冷地域の山地の斜面積雪に、大粒の霰が降り、その上に多量の新雪が積もると、霰の層は氷粒同士の結合が弱く、雪崩の滑り面となり易い。気象庁では、落下した氷の粒の直径が5mm未満を「あられ」、5mm以上を「ひょう」と判定している。霰のことをsoft hailとも言う。(R.N.)
アルベド (albedo)

Photo 17
ある面に入射する日射量(短波放射量)に対する反射量の割合。日射の反射率あるいは反射能と同じ意味。ふつうは、1以下の小数でアルベドを表す。albedoを英米人の発音に近くカタカナ表記するとアルビードとなると思われるが、日本では習慣的にアルベドと読み書きすることが多い。雪氷面のアルベドは、新雪の0.9〜0.75程度から、しまり雪、ざらめ雪の0.7〜0.5、氷河の汚れていない氷の0.6〜0.4程度と非常に幅広い値をとる。アルベドは日射計を上向きと、下向きに設置して測定する。地表面のアルベドは太陽高度の低い朝や夕は大きな値を示す。
 雪も氷河氷もH2Oの結晶であり、日射をよく透過させるが、積もった新雪は細かい結晶面が非常に多くあり、それらの結晶面で日射の反射と屈折を繰り返し、積雪表面に入射した日射量の大半が表面から出て行く。そのため新雪のアルベドは非常に高い。時間の経過とともに、雪粒が丸みを帯び粒径が大きくなると、さらに雪粒間の空隙に水を含むと、結晶面での反射が少なくなり日射は積雪内部に透過、吸収され、その結果アルベドが低下する。また、雪や氷の表面に薄く土砂、黄砂、細粒岩屑、藻類等が付着したり、おおわれたりするとアルベドは0.1以下にも低下する。このように、時間的にも空間的にも変化が著しいアルベドは、雪氷の融解に大きな影響を与える。さらに、気候変化によりわずかに寒冷化した場合、例えばアルベド0.2の土壌表面が0.7の積雪におおわれると、大地の吸収日射量が減少し、さらに寒冷化が進む、という正のフィードバック機構(温暖化の場合も同様)が地球の気候変動に少なからぬ影響を与えていると考えられる。(R.N.)
異常気象 (いじょうきしょう、unusual/anomalous weather)

Photo 197
一般に、数十年間に1回程度の現象、あるいは人が一生の間にまれにしか経験しない現象を指す。気温、降水、風などの短時間の現象から数か月に及ぶ旱魃(かんばつ)などがある。気象庁では、原則的に、ある地点、ある時および季節において、30年に1回以下の現象を「異常」と定義している。具体的には(「異常気象レポート2005」では)、気温に関しては、月ごとに1971〜2000年の平均値(=平年値)と標準偏差を求め、ある年ある月の平均気温と平年値との差が標準偏差の1.83倍以上となった場合、異常高温または異常低温としている。これが、概ね30年に1回の出現確率となる。降水量の場合は、1971〜2000年の間の月降水量の最大値を超えた場合が異常多雨、最少値を下まわった場合が異常少雨としている。なお、2010年夏(6-8月)の日本全国の平均気温は観測史上最高の、異常高温であった。  IPCC(気候変動に関する政府間パネル)の報告書では、「極端な気象現象」(extreme weather)という語を用いており、21世紀末にはこれらの個々の極端現象の発生する頻度、活動度、地域の増加について、「可能性がかなり高い」あるいは「可能性が高い」と予測している。 (写真は、パタゴニアにおける竜巻の雲。ただし、この地域にてこの雲が”異常”というわけではない)。(R.N.)
溢流氷河 (いつりゅうひょうが、outlet glacier)

Photo 40
氷床や氷帽や氷原から流れ出る氷河のこと。氷河の形態による国際分類(IHD, 1967)の一つである。一般に地形の低いところを流れるので、谷氷河の形態を示すことが多い。地形が非常に急峻だと懸垂氷河(hanging glacier)となる。溢流氷河などの下流部が平野に達し、横方向に拡がった氷河を山麓氷河という。溢流氷河の源流域は隣接の溢流氷河と連続しているので、多くの場合、流域境界を決定することが難しい。溢流という語はあまり親しみのない日本語であるが、欧米ではoutlet glacierという語は抵抗なくよく使われる。訳語としては、流出氷河もしくは単にアウトレット氷河の方が良いかもしれない。写真は、ノルウェー西部のフォルゲフォンニ氷帽から溢流する氷河(Photo: Arve Tvede)。(R.N.)
隕石 (いんせき、meteorite)

Photo 208
隕石とは、宇宙空間から地球へ落下した数mm以上の大きさの固体物質のことである。南極の氷の上で大量に発見された隕石を総称して南極隕石と言う。1969年12月下旬、第10次南極越冬隊の内陸調査旅行班が、やまと山脈南端の裸氷域で隕石を初めて発見し、翌1月上旬までに計9個の隕石を採取した。その後、日本南極観測隊では数回(年)にわたり隕石の集中探査を行い、2000年の第41次隊までに総計約16,700個の隕石を氷の上で発見、採集している。これらの内、やまと山脈近傍で採られたものは、とくに「やまと隕石」と言うこともある。南極隕石の大部分は、火星と木星の間に多数存在する小惑星から飛来したものと考えられている。しかし、これらの隕石は種類も様々であり、落下年代も多様と思われ、いわゆる隕石シャワー説は否定されている。
 そのため、これらの隕石は南極氷床上の広領域に長期間にわたって落下し、その後の積雪により氷床内に取り込まれ、氷とともに流動し、やまと山脈周辺の裸氷域では氷の昇華蒸発が活発なため、氷中の隕石が氷表面に露出した、と考えられている。南極の裸氷域の氷の昇華速度は年間数cmのオーダーと見積もられるので、5 cm/年と仮定すると、深さ1000 mの氷中の隕石は2万年で露出することになる。もちろん、様々な時代に南極氷床上に均等に隕石が落下したとすると、それらの内発見されるものは僅かであり、圧倒的多数は氷とともに沿岸に向かって流れ、氷山となり、いずれは氷が融けて海底に落下しているはずである。(R.N.)
ウィンドスクープ (wind scoop)

Photo 186
建築物、岩、樹木等の周りに生ずる雪面の窪み。障害物の周囲で風が収斂して風速が高まったり、強い渦が発生するため、地吹雪で運ばれてきた雪粒が堆積せず、周囲より低い凹地が形成される。写真は、白瀬氷河側方のボツンヌーテン・ヌナタックの周囲に見られるウィンドスクープである。窪地の底面(氷)から露岩の頂上まで標高差約500 mに及ぶ巨大なスクープである(Photo: T.Sa.)。『吹きだまり』の項に示した写真で、建物と吹きだまりの間の無積雪地もウィンドスクープの一種である。なお、融雪(氷)期に岩、樹木等の地物の周囲に同様な形状の窪みが見られることがあるが、これは物体と雪氷面との熱交換の結果であるので現象が全く異なる。(R.N.)
雨量計 (うりょうけい、rain gauge)

Photo 202
気象庁では全国約1300ヶ所の気象台、測候所およびアメダス(AMeDAS)にて、転倒ます型雨量計を用いて降水量と降水強度の観測を行っている。転倒ます型雨量計には、温暖地・夏季用の普通式、降雪地用の温水式および溢水式の3種類があるが、基本的な原理は同じである。転倒ます型雨量計の中には、「転倒ます」というシーソーのような構造をもつ二つの「ます」が納められている。0.5 mmに相当する降水が一つのますに貯まると反対側に転倒するしくみになっている。この転倒回数を数えることにより降水量を知ることができる。普通式は沖縄や南九州で用いられている。温水式転倒ます型雨量計は、普通式の外筒に温水による保温装置を設けたものである。ヒーターを組み込んでいるので、固形降水(雪、あられ等)も融かされる。降雪地域のアメダスや本州の気象官署で主に用いられている。
 溢水式転倒ます型雨量計は、二重構造の外筒に不凍液が満たされ、ヒーターで一定温度に保たれている。内筒の上部には水が貯められており、その上に揮発防止用の油が浮いている。降水があると水面が上昇し、その分だけ溢水口から水が流れ出す。その水が転倒ますに入るようになっている。溢水式はごく少量の降雪でも観測できるという長所があり、主に、北海道の気象官署(旧測候所含む)で冬季に用いられている。しかし、強風が吹くと水が溢れるという欠点もあるため、夏季には普通式に交換する。また、降雪時に風が吹くと乱気流のために降雪が雨量計の中に入らない場合がある。そのため、捕捉率向上の目的で、冬季は助炭(じょたん)と呼ばれる風よけを取り付ける。(写真:転倒ます型雨量計の内部), (T.Y.)
永久凍土 (えいきゅうとうど、permafrost)

Fig. 65
永久凍土とは、2年以上連続して0℃以下の状態を保つ土または岩として定義される。永久凍土は地球上の陸面の約14%を占め、その大部分は北半球に存在する。また永久凍土は上部に活動層と呼ばれる夏期に融解する季節融解層を持つ。永久凍土の分布は水平的かつ鉛直的に連続的に分布する連続的永久凍土地帯、永久凍土地帯に永久凍土でないところが存在する不連続永久凍土地帯、季節凍土の中に永久凍土が存在する島状永久凍土、また山岳域の季節凍土の中に存在する永久凍土として山岳永久凍土と区別される。アラスカ、カナダ、シベリア域の永久凍土地帯では、温暖化により永久凍土内部の氷が融解しその上部にある土塊が崩れ、永久凍土が退化し、その結果道路がゆがみ、家屋が傾き、森林の木々が傾いた状態が存在する。また最近の報告(IPCC)によると、温室効果ガスの排出量の多いシナリオで永久凍土分布を予測した結果2100年には現在のほとんどの永久凍土は融解してしまうという報告もある。(H.Y.)
衛星観測 (えいせいかんそく、satellite remote sensing)

Photo 154
人工衛星から行う観測のことである。地球を対象としたものや惑星を対象としたものなどがある。地球の衛星観測は、気象や地表面の状態を観測するものが一般的である。衛星にはさまざまなセンサーが搭載され、可視光、赤外線、マイクロ波などの観測装置が利用されている。これらの電磁波センサーとともに、最近重力を測定する衛星も開発されている。氷河や雪氷圏の観測に対しては、可視光は氷河の形状や表面の反射率などを、赤外線は表面の温度を、マイクロ波は積雪深や海氷分布などを調べることが多い。マイクロ波による観測のレーダでは、地表面の起伏をとらえたり、微小な変形を計測することができる。また表面高度の計測により南極氷床などの高度の変化も測定される。さらに精度のよい表面高度の観測はレーザー光度計により実現された。重力測定によっても氷床の質量の増減が観測されている。  図は、人工衛星観測から得られた2008.10.1の北極海の画像である(イリノイ大学提供)。濃緑が陸地、白がグリーンランド等の雪と氷、黒が氷のない開水面、赤と紫が海氷の密接度(ある区域の中で海氷に被われている面積の割合:0から100%)を示す。このような画像から、海氷域の日々、季節、年々変動を調べることができる(H.E. & R.N.)。
エスカー (esker)

Photo 101
氷河の融解水は、氷河の表面・内部・底面など、様々な流路を経て流出する。中でも氷河の底を流れる融解水によって、氷河の底と地表との間に連続的なトンネルができる場合がある。融解水によって運搬された砂礫がこのトンネル内に堆積すると、トンネルの形状に従って細長く伸びた丘が形成される。氷河が消滅しても砂礫からなる堆積物はそのまま残り、堤防状の地形が地表に現れることになる。これをエスカーと呼ぶ。かつて巨大な氷床に覆われていた北米や欧州などでは、数キロメートルにわたって続いているものも分布している。写真はローレンタイド氷床の下で形成された巨大エスカー(カナダ・カルガリー近郊)。エスカーの語源はアイルランド語の "eiscir"。 (T.Sa.)
鉛直歪[氷河の] (えんちょくひずみ、vertical strain)

Photo 171
氷河において氷の厚さが変化する割合。ある期間に生じた氷厚変化量と氷厚との比で定義される。氷は空気とは異なり、膨張・収縮する率が小さい。したがって、氷河の幅が一定だと仮定すると、氷河が流動方向に縮めば鉛直方向に伸び、体積を一定に保とうとする。一般に氷河の中流域から末端にかけては流動速度が除々に減少するため、流れに沿って氷が圧縮される。これに伴って氷が鉛直方向に伸びる(氷が厚くなる)が、この氷厚増加量が表面融解量を補うことで氷河の厚さが一定に保たれる。一方氷河の源頭から中流にかけては流動速度が増加するため、流れに沿った伸張と鉛直方向の縮みが生じ(氷が薄くなる)、涵養による氷厚増加を相殺している。写真は掘削孔を使った鉛直歪測定装置。(S.S.)
オージャイブ (ogive)

Photo 34
氷河のアイスフォールより下流の氷河表面にみられる下流側に凸の白黒(または明暗)の縞模様のこと。オーギブとも言う。写真は、アルプス・メールドグラス氷河のオージャイブ(Photo: T.K.)。オージャイブは氷河上を歩いている時はほとんど識別できず、尾根の上から見下したり飛行機から観察すると明瞭に認められる。オージャイブの成因については、氷河の流動、融解、岩屑の集積に起因するなど、諸説あり充分には明らかにされていないが、氷河により主な成因が異なると思われる。世界各地の山岳氷河には、種々の形態のオージャイブが存在するが、いずれもアイスフォールから一年に一組の明暗の縞模様が生成される。すなわち、この縞模様は氷河の下流域(消耗域)の年輪とも言える。この年輪は、氷河の流れとともに下流に移動し、流動速度の大きい地域では縞の間隔が開き、速度の小さい地域では間隔が狭くなる。したがって、縞模様の一つの間隔が、その地点の一年間の表面流動速度を示し、氷河の流動速度が可視化されている希少な氷河表面模様である。(R.N.)
温室効果 (おんしつこうか、greenhouse effect)

Photo 166
地球は太陽からの日射(短波放射エネルギー)を受けて暖まり、一方地球からは赤外(長波長)放射エネルギーを宇宙に放射し、地球全体の1年の平均としては、エネルギーの出入りは差し引きゼロで、地球の気候は不変となっている。しかし、大気中に存在している二酸化炭素、水蒸気、メタンなどの気体は、日射は透過させるが、赤外放射は一部吸収するため、これらの気体が増加すると地球の平均気温は上昇することになる。これら二酸化炭素等の気体が、温室のガラスやビニールの役目を果たしている、との類似から温室効果という名前がつけられた。しかし、植物栽培の温室は、内部の暖まった空気が外に流れ出ないようになっており、この保温効果も大きいので、大気の温室効果とは同じではない。(R.N.)
温暖化 (おんだんか、warming)

Photo 167
言葉通り、気候が温暖になること。温暖化には、限られた地域が温暖になる局所的温暖化と、地球全体が温暖になる地球温暖化と、スケールが大きく異なる二種類の気候変化がある。その内の局所的温暖化には、工場、生活、交通などによる排熱の影響により都市部が暖められること(ヒートアイランド)、および排気ガス、煤煙、ほこり等が大気を被うため放射冷却が抑制され冬の朝の最低気温が低下しないこと、の2つの現象がある。これらを総合して、都市気候と言う。世界中の気象観測所の多くは、人々が暮らしている地域にあるので、どちらかと言えば都市に近い。したがって、世界の気象観測所の気温データを単純に平均すると、全地球の平均値よりはかなり高くなることが一般的である。一方、現在大きな問題となっている地球規模の温暖化は、大気中のCO2濃度の上昇による温室効果が原因で、その急速なCO2増加は人間活動の結果(化石燃料の消費、森林破壊等)であることは疑いない。(R.N.)
温暖氷河 (おんだんひょうが、temperate glacier)

Photo 184
氷の温度が、冬の短期間の表層付近を除き、夏も冬もいたるところ融点(0℃)にある氷河。つまり常に少しずつは融けているので、氷河が持続的に存在し続けるためには降雪量が多くなければならない。温暖氷河は、氷の温度(融解の有無)に着目した分類であり、その対となるものは、夏でも融解がほとんど無視できる極地氷河である。温暖氷河が数多く存在する代表的な地域は、アラスカの太平洋側および南米大陸南部のパタゴニア等があげられる。写真は、融解水がクレバスに溜まり氷上池となった光景(Photo: E. Isenko)。このほか、ヒマラヤやアルプスの山岳地域でも標高の低い地域の氷河や、(亜極地)氷河の下流部分は温暖氷河となっている。(R.N.)
海面上昇 (かいめんじょうしょう、sea level rise)

Photo 155
全地球の平均海水面は、各地の検潮儀による観測データの解析の結果、20世紀の100年間で約10cm弱上昇したことが分かっている。20世紀末頃からは、人工衛星により世界中の海面が直接測定されるようになり、海水面変動の地域的、時間的な詳細なデータが集積されている。過去1世紀の海面上昇の約半分は、温暖化にともなう海水温上昇による海水の熱膨張、他の半分は山岳氷河と北極氷帽の融解によると見積もられている。このように、南極や北極の氷床に比べて総面積は小さいながら、山岳氷河の後退の影響は大きい。一方、今後100年間に予想される平均海面上昇量は約30cmから50cm程度と著しく、その内訳の予測では、約半分が海水の熱膨張、他の半分が氷河・氷帽の融解による。南極の氷床は、温暖化により降雪量が増加するため、内陸部の氷は厚くなり、海水面を低下させる傾向になると考えられている。ただし、何らかの原因により氷床の流動速度が増大し氷山を多く排出するようになると海水面を上昇させる、という可能性も指摘されている。グリーンランドの氷床は、沿岸部の温暖地域は氷の融解量が増し、内陸部は降雪量が増し、差し引き海水面変動には大きな影響を与えないか、僅かに上昇の寄与と予想されている。写真は、南極オングル島における潮汐測定のための検潮尺である。(R.N.)
海氷 (かいひょう、sea ice)

Photo. 123
海の水が凍った氷。海水中の塩分は、海水が凍るとき氷結晶の中には組み込まれないが、結晶と結晶の隙間に濃縮された液体の状態で閉じこめられる。したがって、海氷の塩分は海水(塩分濃度:約3.4%)よりは大分薄く、海氷を融かして口に含むと、やや塩辛い味がする程度(約0.3-0.5%)である。海水は、生成してから1年未満の一年氷(first-year ice)、2年目の二年氷(second-year ice)、多年性の多年氷(multi-year ice )に分けられる。海氷が岸に接して動かないと定着氷(fast ice )、割れて海を漂流すると流氷(pack ice)と呼ばれる。温暖化により多年氷が融解して海水面となると、雪や氷の反射率(アルベド:約0.4-0.8)が海水のアルベド(約0.05)に低下するので、吸収日射量が著しく増え、海水温の上昇を引き起こし、温暖化という正のフィーードバックにより気候環境に大きな影響を与える。写真は、南極昭和基地沖の海氷(氷盤の上にペンギンが見られる.Photo: T.Sa.)。(R.N.)
カービング (calving)

Photo 14
氷河、氷床、棚氷の末端から大小の氷塊が海洋や湖に崩壊する現象。calveという動詞は、”動物等が子を産む”という意味である。calvingの日本語訳として分離や氷山分離と呼ばれていたが、これは南極やグリーンランドの氷床や棚氷から巨大な氷山を産出するものを対象として名づけられたものである。山岳氷河の末端から氷塊や氷片が湖に崩落する現象は、末端崩壊や末端分離とよぶ方が適当であろう。しかし、最近は単にカービングと言うことが多い。 南極氷床では全消耗(質量損失)量に占めるカービング量の割合は約97%と見積もられている。氷河や氷床のカービングは,末端が流出する水域が海水か真水かにより、そのメカニズムや動的特性が異なる。カービングに影響をおよぼす要素としては、氷河流動、日射、気温、融解量、降水量、水温、対流、さらに海水の場合は波浪、潮汐,潮流,塩分など数多く考えられるがまだ十分定量的には明らかにされていない。(R.N.)
花粉分析 (かふんぶんせき、pollen analysis)

Photo 111
花粉分析とは、湖、湿原などの堆積物中に含まれる化石花粉や胞子を化学処理により分離し、その種類や数を調べて過去の植物の歴史、植生の変遷、気候の変化(氷期編年を含む)などを明らかにしようとする、植物学、林学、地質学、地理学、考古学等さまざまな学問分野と密接な関係のある自然科学の境界領域の研究またはその手法のことである。化石花粉は、堆積物中に数多く存在し、保存が良く、同定が容易なため、過去の環境復元に有効な一手段である。西日本の盆地のボーリングコアの分析例では、氷期にはモミ属、トウヒ属、ツガ属の花粉などある程度寒さに適応できる樹木化石花粉(写真)が増え、間氷期にはスギ属、ヒノキ科(Cupressaceae)など温帯要素の樹木化石花粉が増え、特徴的である。さらに、ブナ属、コナラ亜属など冷温帯要素化石花粉はそれぞれの遷移層と考えられるので、これらの分析から過去3回の氷期−間氷期の編年が明らかにされている。(T. I.)
完新世 (かんしんせい、Holocene)

Photo 68
地質時代区分のうちの最新の時代である第四紀の中で、更新世に続くもっとも新しい「世」。植物遺体や花粉分析によって復元された気候変動に基づいて、Preboreal (10,000-9,000年前)、Boreal (9,000-8,000年前)、Atlantic (8,000-5,000千年前)、Subboreal (5,000-2,500年前)、Subatlantic (2,500年前-現在)に細分されている。最後の氷期(glacial age)が終焉した約1万年前から始まり、多少の寒暖サイクルはあるものの,現在まで比較的温和な気候が安定して続いてきたと考えられており、氷期と氷期の間の間氷期の一つに位置づけられている。完新世は現在も含むことから、この時代区分は、今後大きな気候変動でもないかぎり将来も続くと考えられる。なお、人間活動が集中する沖積平野のほとんどがこの時代に形成されたことや、ノアの洪水以降の時代と考えられたことから、かつては沖積世とも呼ばれたが、現在では使われなくなった。また、人類が地球規模で環境に大きな影響を及ぼすようになった時代を人類世 (Anthropocene)として完新世から分離しようという提言もある。写真は、弥生時代の竪穴住居(2世紀後半。鳥取県妻木晩田<むきばんだ>遺跡)。(T.Sa.)
岩石氷河 (がんせきひょうが、rock glacier/rockglacier)

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岩石「氷河」は「氷河」ではない。周氷河地形の一つであり、「間隙を氷核や氷のレンズで満たされた、舌状ないし耳たぶ状の岩屑堆積物」と定義されている。内部に氷がありクリープを起こして流動しているものを「現成型」、氷はあるが流動していないものを「停滞型」、氷が消失し表面が陥没しているものを「化石型」と呼んでいる。その成因には、永久凍土に起因するとする「周氷河説」と岩屑被覆氷河が移行したとする「氷河説」とがあり、決着はついていない。日本ではカール底に見られる岩屑丘について、モレーンであるか岩石氷河であるかの議論が行われている最中である。白馬杓子岳北面の岩石氷河を除くと、現成型岩石氷河は見いだされていないので、過去の寒冷環境に対応して生成したと考えられている。 写真は内蔵助カールの岩石氷河。(T.A.)
間氷期 (かんぴょうき、interglacial period/ interglacial stage)

Fig.244
第四紀の氷期・間氷期の10万年サイクルの中で、相対的に暖かい時期を間氷期という。間氷期には、高緯度の氷床が縮小し、これが海面を現在よりもおおよそ1〜数m上昇させていたことがわかっている。図は、南極ドームふじ基地の氷コアから得られた気温指標(赤い線)の変動だが、右端のオレンジ色の期間(およそ11万年〜13万年前)は最終間氷期(サンガモン、またはエーミアン間氷期)である(提供:渡辺興亜)。南極やグリーンランドの氷コアから得られる最終間氷期の気温や二酸化炭素濃度の変動は、完新世の環境変動と対比され、注目されている。(T.Shi. & R.N.)
涵養 (かんよう、accumulation)

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氷河・氷床に雪が積もることによって雪氷の量を増す現象の総称。蓄積とも言う。積雪とか降雪の方が分かりやすい言葉だが、氷河の涵養には最も主要な降積雪以外にも、凝結、雨(降ってから凍結)、風による雪の堆積、雪崩のデブリが含まれる。涵養量から消耗量を引いた量を正味涵養量(net accumulation)または収支(balance)と言う。一般に氷河の上流域および南極氷床の大半の地域は、正味涵養量が正、すなわち雪は毎年蓄積されている。このような地域を涵養域と言う。涵養量は、ある地点における雪氷の増加量を雨量換算で表す場合(mm/year)と、氷河全体あるいは涵養域全体の雪氷増加量を(kg/year)にて表す場合とがある。写真は、スバールバル諸島のオーストフォンナ氷帽の頂上付近(涵養域)において新雪(または年正味涵養量)の深さをゾンデ棒にて測定している光景である(Photo: Jon Ove Hagen)。(R.N.)
涵養域 (かんよういき、accumulation area/zone)
氷河上で一年間の涵養量が消耗量を上回る地域のこと。蓄積域とも言う。涵養域では、特殊な状況(融解水の再凍結による氷形成)を除くと、氷河表面は1年以内に積もった雪に被われている。写真は、パタゴニア・ティンダル氷河の涵養域の雪原である(Photo: T.Shi.)。涵養域以外の地域は消耗域(ablation area)と言い、その境界線が平衡線(均衡線)である。涵養および消耗は気象現象なので、それらの量は年々変動する。すなわち、涵養域の面積は年々変動し、圏谷氷河のような小規模の氷河では、年によっては全域が涵養域になったり、全域が消耗域になることもある。長年間の平均的な涵養域の面積が氷河全面積に占める割合を涵養域比(AAR)と言い、標準的な山岳氷河では60-70%程度である。(R.N.)
寒冷圏 (かんれいけん、cryosphere)

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地球上の寒冷な地域。寒冷圏には、特に気候的条件や地理的範囲など、はっきりとした定義はない。’cryo-‘は、“冷凍の、低温の”という意味なので、cryosphere(クリオスフェア)の訳語として寒冷圏とすることも多い。したがって、雪氷圏とほぼ同じ意味で使われる。しかし、雪氷圏というと動物や植物が生存し得ないような地域に感じられるので、分野によっては寒冷圏の方がよく使われる。写真は、地球上の最北の町の一つ、北緯78度のスバールバル諸島ロングイヤーベーンの中心街(Photo: Monica Sund)。(R.N.)
寒冷氷河 (かんれいひょうが、cold glacier)

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氷河内部の温度が、氷河のいたるところ1年中氷点下か、底面のみ融点でほかのいたるところ1年中氷点下の氷河。極地氷河と定義が似ているが、極地氷河は融解の有無に、寒冷氷河は氷河内部の温度に着目した分類である。真極地氷河はすべて寒冷氷河、亜極地氷河の大半は寒冷氷河で一部は複合温度氷河(polythermal glacier)である。この分類にしたがうと、すべての氷河は、寒冷氷河、複合温度氷河、温暖氷河のいずれかである。写真はアンデス高山(標高4,100-4,900m)のピロト氷河。正面の壁に見られる縦の白い帯は表層雪崩の跡である。(R.N.)
気象レーダー (きしょうれーだー、weather radar/meteorological radar)

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空中にある雨や雪を電波を用いて観測する装置。アンテナから放射された電磁波(マイクロ波)が雨や雪にぶつかると反射し、再びアンテナに戻ってくる。反射波が帰ってくるまでの時間から雨や雪までの距離、反射波の強度からそれらの規模を知ることができる。最近では、反射波の周波数を解析することにより、風向風速も分かるドップラーレーダーという新しい気象レーダーが登場している。大気の小さな動きが分かるため、ダウンバーストや竜巻などの予測に不可欠な存在となっている。気象庁が全国に展開している気象レーダーは20ある。ひとつの気象レーダーがおおよそ半径300 kmの範囲をカバーし、5分間隔で観測を行っている。現在は、従来の気象レーダーが順次、ドップラーレーダーに置き換えられている段階である。また、一部の空港にもドップラーレーダーが設置されており、航空気象業務に利用されている。
 写真は、富士山頂(3776 m)剣が峰の旧富士山測候所と気象レーダードーム(白い球形ドームの中にパラボラアンテナ)である(撮影:気象庁・小池仁治、1994年12月)。富士山レーダーは、主に台風の観測のため1964年に設置され、最大700-800kmまでの範囲の雨雲の検知を行い気象予報に重要な役割を果たしていたが、その後、気象衛星の発達、および静岡県牧之原と長野県車山に代替レーダーが設置され、その役割を終えたとして1999年11月1日に運用を終了した。なお、現在はレーダードームも撤去され、富士吉田市の富士山レーダードーム館にて展示されている。また、富士山測候所も2004年に無人化され、現在は、気温、湿度、気圧、日照時間(夏季)のみを観測している。 (T.Y. & R.N.)
気泡 (きほう、air bubble)

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雪氷学では、気泡とは氷の中に存在する直径0.1mm〜数mm程度の空気の粒を指す。冷蔵庫で水を凍結させる場合には微少な気泡が形成され、氷全体が白く見える。ゆっくりと水を凍結させると、比較的透明で凍結方向に伸長した気泡を含む氷が形成される。これらはもともと水に融解していた空気が析出したものである。一方、南極氷床やグリーンランド氷床の氷に含まれている気泡には、昔の空気が含まれている。これらの氷は雪面に堆積した雪が氷床内部で圧縮されてできているので、雪の周りにあった空気が気泡として氷に取り込まれたためである(雪面下50〜110mで気泡は形成される)。南極やグリーンランドなどでは氷床を鉛直方向に掘削して直径10cm程度の氷床コア試料が採取されているが、これらの氷試料に含まれている気泡から空気を抽出し、昔の大気成分が復元されている(これまでのところ、過去79万年前まで復元されている)。この結果、地球の気温の変動パターンと大気中のCO2濃度の変動パターンは同じ傾向であり、大気中CO2濃度が地球の気温に大きな影響を与えていたことが推定された。
 なお、氷床深部の氷は圧力が非常に高いため、気泡の空気は氷結晶格子の中に取り込まれ(クラスレートという)、氷は透明となる。また、氷山の氷はかつては氷床や氷河内部の氷であり、気泡内の空気の圧力は外気圧より高いため、氷片をコップの中の水に入れると、氷の融解とともに高圧の気泡が破裂しピチピチと音を立てる。写真は、南極の氷河氷を約1mmの厚さに削った薄片を偏光板にはさんで見たものである。氷結晶の向きの違いにより異なる色となる。氷結晶の中に認められる多数の小さな丸い粒が気泡である。(T.K.)
極軌道衛星 (きょくきどうえいせい、polar orbital satellite)

Photo 05
極軌道衛星とは、 北極と南極のほぼ上を通って地球を縦に回る衛星で、地表から800〜1000 km程度の低い高度で地球全体の上をくまなく通る衛星が多い。36,000 km上空にある静止気象衛星と比較すると距離は40分の1であり、地表の狭い範囲を詳細に観測するのに適しており、地球観測衛星などがこの軌道を飛んでいる。軌道高度1000km程度の円軌道の衛星は、地球を1時間40分程度で一周するので、その間に地球は経度にして20数度自転する。同じ衛星が約1時間40分おきに2〜3回上空を通ることになり、地球の裏側の軌道を合わせると、1日に同じ衛星が4〜5回見えることがある。一般に、高緯度の方が観測頻度が多くなる。また衛星が、1回の通過の際にどれだけの幅が観測できるかにより、ある地域の観測頻度が異なる。観測幅1000 kmのNOAA衛星などはほぼ毎日同一地域を見ることができるが、観測幅50 kmほどのLandsat衛星などでは同一地域の観測は数週間に一度となる。図は、Landsat衛星イメージによるパタゴニア南氷床(編集:安仁屋政武 & R.N.)。(H.E.)
極地 (きょくち、polar region)

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南極や北極地域のことを指すが、特に明確な範囲は定義されていない。地理学的には、北緯66度33分以北の北極圏および南緯66度33分以南の南極圏を極地とすることもある。南極には日本列島の約37倍の面積の氷でおおわれた大陸(南極氷床)があり、一方北極には南極氷床と同規模の面積の海(北極海)が拡がっている。写真は、南極大陸沖を航行する砕氷船「しらせ」(Photo: T.Sa.)。ヒマラヤ山脈の様な高山地域も、寒冷過酷な気候環境なので、第3の極地と呼ばれることがある。(R.N.)
極地氷河 (きょくちひょうが、polar glacier)

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夏でもほとんど雪や氷が融けることのない氷河。極地氷河は、極地に限らないが地球上の寒冷な地域に存在する。極地氷河のうち、氷河の下流域の夏の短い期間を除き大部分の場所では1年中まったく融けないものを真極地氷河、氷河の全域が夏の期間にかぎり雪や氷が融けるものを亜極地氷河と言う。この分類にしたがうと、すべての氷河は、真極地氷河、亜極地氷河、温暖氷河のいずれかである。写真は極地氷河の上流、涵養域である(Photo: T.K.)。 (R.N.)
均衡線 (きんこうせん、equilibrium line)

Photo 219
平衡線と同じ。地質学や地形学の分野では均衡線の方が良く使われる。氷河上にて年間の積雪量(収入)と融解量(支出)とが釣り合う(平衡する)地点を連ねた線、という意味でequilibrium lineと名づけられたが、それを日本の氷河学では字句通り平衡線と訳した。しかし、平衡という語は、地形形成の分野においては別の意味に使われるので、平衡線を避け、均衡線と呼ぶのであろう。写真は、パタゴニア・ティンダル氷河の消耗域から上流を望んだ光景であり、中央の激しいクレバス帯の上縁が、おおむね平均的な平衡線(均衡線)の位置となっている。平衡線より上部は涵養域であり、パタゴニア南氷原となる。(R.N.)
空中花粉 (くうちゅうかふん、airborne pollen)

Photo 112
空中花粉とは空中に飛散する花粉のことで、特にスギ、ヒノキの花粉が多く飛散すると、そのアレルギー症状による花粉症に悩まされる人が少なくない。写真はスギの花芽であり(島根県安来市、2008年11月)、西日本では一般的に2月からスギ花粉の飛散が始まり、3月に最大に達する。飛散空中花粉の測定装置には様々なものがあるが、ダーラム型採取器(Durham, 1946)が安価で簡単な作りであるため、現在わが国で最も普及している。標準的な測定方法は、スライドグラスの中央部に白色ワセリンを塗った採取器を24時間屋外に設置し、自然の大気にあてた後、そのグラスの表面を薬剤処理し、光学顕微鏡によりグラスの全面を走査し、1cm2当たりの各樹木の花粉数(一般にスギ、ヒノキの花粉毎の花粉数)を計測する。近年は民間の気象会社が、1月初旬から5月上旬まで毎日の空中花粉のデータに当日または一週間毎の気象データを突き合わせて、地域ごとの花粉情報(非常に多い、多い、やや多い、少ない、の4階級)をマスコミを通して発表している。この花粉情報をもとに花粉過敏者は花粉症対策(マスク・メガネ・抗花粉症薬など)をほどこし、快適な日常生活が営めるように自己防衛している。(T.I.)
クラック (crack)
一般に、割れ目、裂け目、亀裂のこと。氷河では幅の広い、深い割れ目はクレバスと呼ぶ。人が落ちることがないような小さい割れ目はクラックと言うことが多い。写真は、氷河上のクラックを融け水が流れ、ムーランに集まって流下している光景を示す(Photo: K.K.)。海氷では、クラックが幅広くなるとリード(lead、水路)となる。海氷と岸との間には、潮汐による海氷の昇降によりタイドクラック(tide crack)が形成される。斜面積雪では、底面で積雪が滑ったとき斜面上部に等高線方向にクラックが生ずることがある。このクラックが拡大すると全層雪崩が発生しやすい。(R.N.)
クリオコナイトホール (cryoconite hole)

 

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氷河の裸氷域でみられる、小さな円柱状の水たまりのことをクリオコナイトホールという(写真:上)。水たまりの底には黒っぽい色をした沈殿物があり、これをクリオコナイトと呼ぶ(写真:下)。クリオコナイトは、ギリシャ語で氷を意味する“クリオ”と土砂を意味する“コニーデ”からつくられた言葉で、20世紀初めの北極域の探検家ノルデンショルドによって名づけられた。クリオコナイトホールの大きさは、直径が数cmから50cm、深さも数cmから30cmくらいまで様々であり、その大きさは氷河表面の熱収支、穴の持続時間などによって決まる。黒い色をしているクリオコナイトが日射を吸収し、その場所が周囲の氷より融解が速まることにより、クリオコナイトホールが形成する。クリオコナイトをよく見ると、直径1mmほどの粒状の物体で構成されていることがある。この粒はクリオコナイト粒といい、シアノバクテリアやバクテリアなどの雪氷微生物を含む微生物複合体である。クリオコナイト粒は、光合成微生物である糸状のシアノバクテリアが、鉱物粒子や有機物を絡ませながら成長し、マリモのような構造をしている。氷河の融解水を湛えるクリオコナイトホールは、氷河上の安定な止水環境であることから、微生物をはじめ昆虫や微小動物など様々な雪氷生物の生息場所になっている。クリオコナイトそのものが生物活動によって形成されることから、クリオコナイトホールは生物が自らつくった氷河上の生息場所と見ることもできる。クリオコナイトホールは世界中の氷河の裸氷域に共通してみられる。グリーンランドのクリオコナイトホールには、氷河流動の効果で宇宙塵が集積していることが知られている。(N.T.)
クレバス (crevasse)

Photo 159
氷河表面に見られる大きな氷の割れ目。クレバスは氷の強度を超える大きな力がかかり氷が破壊することにより生ずる。氷河では、流動速度が大きく、かつ基盤地形や流路が変化する場所に発達する。クレバスの幅は数mを超える巨大なものもあるが、深さは20-30m以上にはならない。それは、仮にそれより深い割れ目が生じたとしても深部の氷にかかる圧力は高いので割れ目はすぐに閉じてしまうからである。しかし、温暖氷河でよく見られるような水で満ちたクレバス(water-filled crevasse)では(Photo: E. Isenko)、水圧が氷の圧力に抗するので、割れ目が閉じることがなく、クレバスが氷河底面の水路まで連結していることもある。クレバスに転落すると自力で脱出することが非常に難しいので、大きな事故につながることが多い。クレバスが新雪におおわれて隠れている(hidden crevasse)と特に危険である。人の足が入らない程度の小さな割れ目はクラック(crack)と呼ぶことも多い。(R.N.)
グレーシャーテーブル (glacier table)

Photo 170
氷河上にて氷の柱で支えられた巨岩(boulder)または板状の石(Photo: E. Isenko)。テーブルのような形からこのように呼ばれている。日本語に訳すとすれば、氷河卓となる。岩が日射を遮り、その下部は周囲の氷より融解が少なく、結果として岩が持ち上がる。形態は異なるが、形成メカニズムは三角錐のダートコーン(dirt cone)と同一である。北半球では岩の南側(南半球では北側)の氷が日射を多く受けるため、融解が進むので、岩は南側(南半球では北側)へ傾き、転倒することが多い。氷河上の巨岩は、空中写真による氷河流動測定の格好な標識となり得るが、岩が氷とは相対的に動くこともあることに留意する必要がある。(R.N.)
圏谷 (けんこく、cirque)

Photo 89
山岳氷河による浸食地形の代表例。日本の氷河地形研究が始まった当初、ドイツで学んだ研究者が中心的役割を担ったことから、日本では一般にドイツ語の「カール(Kar)」が用いられている。英語ではサークという。三方を囲む急峻なカール壁と半円形の平底なカール底からなる地形で、氷食を受けた山地で広く見られる。氷河の流動に伴う回転運動と、氷河上面のカール壁での凍結破砕作用がカールの形成に重要な役割を果たしている。氷河の流動と浸食は平衡線高度付近で最も活発に起こることから、ある地域のカール底の高度はほぼ一定の高度にそろい、広域的な気候的雪線高度を近似的に示していると考えられている。
 日本では、日本アルプスや日高山脈の最終氷期末期(晩氷期)まで氷河が残存したカールで、典型的かつ明瞭なカール地形を見ることができる。その分布は、冬期の北西季節風の影響によって積雪の再移動と吹きだまりの形成が起こるため、稜線の東側に偏っている。吹きだまりの形成は局所的な微気象や微地形の影響を受けるため、日本のカール底高度はかならずしも広域的な気候環境を反映しているとは言えない。写真は、槍−穂高連峰のカール群とU字谷(羽田−富山線の機窓より)。東側(手前側)の稜線直下にカールが並んでいる。 (T.A.)
圏谷氷河 (けんこくひょうが、cirque glacier)

Photo 211
山岳の圏谷(またはカールkar)を埋める氷河。さまざまな種類の氷河の内、一般にはもっとも規模が小さい。圏谷氷河は、稜線風下における雪の吹き溜まりや急峻な斜面からの雪崩により主に涵養される。圏谷氷河が消失すると、お椀を半分に切ったような形の圏谷(またはカール)地形が残される。写真は、スウェーデン北部からノルウェーにかけての山岳氷河群であり、中央の岩峰の稜線直下の半割り椀状の窪地に典型的な圏谷氷河が見られる(Photo: K.K.)。(R.N.)
懸垂氷河 (けんすいひょうが、hanging glacier)

Photo 224
山岳地の圏谷氷河や氷帽から溢れ出た氷河の一部、あるいは非常に急峻な斜面にへばりついた氷河のことを指す。懸垂といっても宙吊りはありえず、岩屑が安定して静止し得ない程度の急斜面に存在する氷体である。懸垂氷河は、しばしば氷雪崩または氷崩落を引き起こす。これらにより懸垂氷河は消耗し、一方急斜面の下部の谷に氷河が存在する場合は、氷雪崩等のデブリが谷氷河の涵養となることがある。懸垂氷河は氷エプロン(ice aprons)と呼ばれることもある。これらは氷河の形態による呼称だが、懸垂氷河の動的な視点から”なだれる氷河”(avalanching glacier)という用語が使われることもある。写真は、ヒマラヤ・タムセルクの懸垂氷河である。ちょうど、同氷河の下端から崩壊が起き、雪氷塊が雪崩となって流下しているところ(Photo: T. Shi)。(R.N.)
降雪深 (こうせつしん、snowfall thickness/depth of newly-fallen snow)

Photo 97
一定時間に降り積もった雪の深さを指す。気象庁では「降雪の深さ」ともいう。単位はcm。気象庁では、積雪深計(超音波式または光電式)を整備している観測所においては、正時の積雪深と一時間前の正時の積雪深の差(増加分)を降雪深と定義している。一方、積雪深計がない観測所では雪板による観測を行う。雪板(降雪板ともいう)は平らな板の上に垂直の柱を立てたもので、雪面と同一面になるように設置する(写真右、手前)。観測時刻(9時、15時、21時)に、板の上に降り積もった雪の深さを測定し、測定が終われば、板の上の雪をはらい、再び雪面の上に置く。2005年9月以前には、すべての有人観測所(気象台・測候所)において、雪板による観測を行い、それが降雪深であると定義されていた。アメダスについては、2005年9月以前も現在と同じ定義であった。
 雪板による6時間もしくは12時間ごとの降雪深と、積雪深計による1時間ごとの降雪深の積算値とは、自重による積雪の沈み込みの効果や測定方法の相違のため、一致しないこともある。したがって、気象庁の降雪深データの累積年値や経年変化を扱う場合には十分注意が必要である。積雪深計のある観測所とない観測所の降雪深を比較する場合も同様に注意せねばならない。また、1日、1か月、一冬季にわたり降雪深を積算した値を、累積降雪深または累積降雪量という。わが国の日本海側の多雪地域では、一冬の累積降雪深は10 mを超え、実際の積雪深よりは著しく大きい。[写真:旧寿都測候所における露場(左)と雪板・積雪深計(右)、2007年](T.Y.)
豪雪 (ごうせつ、heavy snowfall)
著しい大雪のこと。豪雪の定義としての基準は特にない。災害対策基本法では、気象現象に関わる災害として暴風、豪雨、洪水、高潮とともに、豪雪が明記されている。大雪による災害や、交通や生活に多くの障害が発生した場合、その大雪の発生年を付し、38豪雪(昭和38、1962/63年)とか56豪雪(昭和56、1980/81年)とか名付けられてきた。38豪雪では最大積雪深が福井で213 cm、56豪雪では新潟県十日町で391 cmに達した。日本列島の中でも地域により、豪雪となる年が異なることが多い。北海道から東北、北陸、山陰地方にかけて、どこかの地域で豪雪だった主な年を列挙すると以下の通りである。1939/40、1944/45、1960/61、1962/63、1973/74、1976/77、1980/81、1983/84、1985/86、2000/2001、2005/06。写真は新潟県十日町 ( 2005年1月13日、Photo: Y.T.)。(R.N.)
構造土 (こうぞうど、patterned ground)

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寒冷地の地表面に形成される様々な形の幾何学的模様のこと。多角形土はポリゴン(polygons)と呼ばれ、他に円形、網状、階段状、縞模様などの構造土がある。日本でも、北海道の大雪山系・他にて多く存在している。写真の構造土は、土壌の溝に沿って粗い礫の列が平行に並んだ条線土(stripes)である(パタゴニア、セロ・モレノ山中腹)。周氷河現象の構造土は、土壌の凍結と融解の繰り返しにより長い年月を経て形成されることは明らかであるが、詳しい生成機構、および何故多様な形態を示すのか、等については未解明なことが多い。(R.N.)
後退[氷河の] (こうたい、retreat/recession)
氷河の末端が上流の方へ後退すること。逆の現象を氷河の前進(advance)と言う。数十年以上の長い時間尺度で見れば、降雪量や気温変動などの気候変化の影響をうけて氷河の末端は前進や後退を起こす。しかし、数年涼しい夏が続いたとしても必ずしも氷河は前進を起こすわけではないし、最近の数年氷河が後退しているからと言って温暖化の影響と直ちに結論づけることはできない。氷河の前進、後退は、主に降雪量、気温、氷河流動速度のバランスで決まるので、10年〜数十年以上にわたって蓄積された気候の歴史を反映している。写真は、ターミナルモレーン上のほぼ同一地点から見た1985年10月と1998年11月のソレール氷河である。後者では、氷河が大きく後退し、末端部に池が形成された。(R.N.)
後氷期 (こうひょうき、Postglacial period/age)

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最後の氷期以降の時代。完新世(Holocene)とほぼ同義だが、現在では地質時代を指す正式な用語ではなく慣用的に使われている。地質時代を指す場合に英語でPostglacial periodと呼ぶことはまれであり、むしろ、postglacial rebound (氷床消滅後の地殻隆起)やpostglacial climate change (氷期以降の気候変動)というように、氷床が消滅した後の時代を強調するために形容詞的に使われる場合がほとんどである。写真は、最終氷期に氷床底にて形成されたドラムリン(drumlin)の丘である(アイルランド西部)。「ドラムリン」の項に示した写真は基盤岩の地形だが、こちらは砂礫などの堆積物で構成されている。いずれの種類のドラムリンもかつての氷河の流動方向に細長く伸びた流線型のなだらかな丘である。 (T.Sa. & R.N.)
氷 (こおり、ice)

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水の固体。酸素原子1個と水素原子2個の組が、六角形を基本構造として網目状に配列した結晶。雪の結晶は、氷結晶が規則的に配列し、外形も六角形の基本構造を示す。液体の水が凍ると氷(凍結氷とも言う)となり、気体の水(水蒸気)が昇華凝結すると雪または霜となる。積雪を圧縮して、密度が820-840kg/m3を超えると、通気性がなくなり、氷と定義される。写真は、南極の氷山の氷を厚さ1mm程度の薄片にし、偏光を通して見たものである。同じ色の部分が一つの氷結晶である。(R.N.)
氷コア (こおりこあ、ice core)

Photo 50
掘削ドリルで採取された円柱状の氷試料のこと。コアに雪が含まれているときは、雪氷コアとも言う。氷コアの酸素・水素同位体、含有物、氷組織などの解析により、雪として堆積したときの気温や気候環境などを知ることができる。積雪コアを採取し、何らかの方法で年層の境界を判定することができれば、年層間の試料の重量を測定することにより、年間積雪量の変遷を求めることができる。雪氷コアを採取するためには、電源のない山岳氷河等では手動のドリル(写真)を使用する(Photo: E.Isenko)。積雪なら手動でも深さ15m位、氷なら深さ数m位までが可能である。裸氷域では、氷コアの分析の目的ではなく、融解量測定ポール等の設置のため、コア・ドリルを用いて深い縦穴を開けることがある。一方、アンデス、アラスカ、アジア内陸などの高山の氷コア解析により、数千年前から現在に至るまでの環境の変遷が明らかにされてきた。(R.N.)
氷ダム (こおりだむ、ice dam/glacier dam)

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氷河が河川や湖を堰き止めて形成されたダム。氷河の末端が前進したり、拡大したとき、氷河が河川の流路をふさぐと氷ダムとなり、その上流側には氷河湖が形成される。写真のペリ−ト・モレノ氷河は、通常年は氷河末端と対岸(写真右端)との間に水路があり手前の湖から奥の湖へ水が流れているが、氷河末端がやや前進し水路が閉鎖されると、氷ダムとなる。(R.N.)
氷雪崩 (こおりなだれ、ice avalanche)

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雪ではなく、氷が雪崩(なだれ)る現象のこと。氷河のアイスフォールや急峻な岩壁で起こる。ほぼ連日のように同一地点で小規模な氷雪崩を起こす氷河もあるが、数年〜十数年の間隔で氷河全体が大規模な氷雪崩となる氷河もある。前者は高山の登山者にとっては難しい行動判断が求められ、後者は麓の住民や施設に甚大な被害をもたらすことがある。写真のヒャーデス山(Cerro Hyades)斜面の露岩の上から、一日に数回氷雪崩が起こり、手前のソレール(Soler)氷河上に氷と岩屑が堆積する。(R.N.)
粉雪 (こなゆき、powder snow)

Photo 149
降り積もって間もない、乾いた軽い粉状の雪。寒冷地や高山で、気温が低く、風が弱いときに降る。スキーやスノーボードで滑走すると、雪煙が舞い上がる。雪氷学会の雪質分類にはなく、粉雪は新雪に含まれる。しかし、新雪は乾いた軽い雪から濡れた重い雪までを含むので、粉雪という呼称は捨てがたい。なお、道路の雪氷では、新雪が自動車の走行によって砕かれ粉状になった雪を粉雪と呼ぶ。(R.N.)
サージ (surge)

 

Photos 38 & 36
数ヶ月から1年程度の期間にわたって、氷河の流動速度が著しく上昇する現象。流動速度は通常の数10倍に増加し、氷河の末端が数100mから数kmにわたって大きく前進することも多い。サージとは、大波とか、波のように押し寄せることであり、氷河で見られるサージは、正確には氷河サージ(glacier surge)とすべきであるが、誤解を招く恐れのない場合は単にサージという。サージが観測される氷河は限られており、スバールバル諸島やアラスカの氷河に多く見られるが、それ以外の地域(例えばアイスランド、コーカサス、パミールなど)にも広く存在する。ある程度の周期性を持ってサージを起こす氷河が多く、その周期は一般的に数十年程度である。スバールバルの氷河サージの期間はアラスカに比べて長く、静穏期が30-150年、活動期が2-10年である。静穏期には氷河は後退を続ける。サージのメカニズムについては諸説あり、依然論争中だが、底面水圧上昇や堆積物の変形による底面流動が大きな役割を果たしていると考えられる。サージの原因として気候変動は無関係という考えが主流であるが、氷河の質量収支変動の結果がサージの引き金になる、という研究例もある。
 写真(上)は、サージ活動中のスバールバル諸島スピッツベルゲン島のスコブリーン(Skobreen)氷河を、谷頭の分水界付近から下流方向を見たものである(2005年6月)。氷河表面にはクレバスが激しく発達し、氷河全域にわたって表面が数十メートル低下した後、2006年にはサージは終息した。写真(下)は、2008年のサージ活動中のコンフォートレス氷河(スバールバル諸島)であり、前進しつつある氷河末端が地面の凍結堆積物を押している様子が分る (Photos: Monica Sund)。(S.S. & R.N.)
サスツルギ (sastrugi)

Photo 116
強い風と地吹雪粒子により積雪表面が削剥され、著しい凹凸の形状を示す雪面模様。風上側に鋭い先端や庇をもち、風下側に尾根状の形態が伸びる。高さは1〜2mにも達し、雪は一般に硬い。sastrugiはsastrugu(ロシア語)の複数形だが、複数形として用いられることの方が多い。日本の登山者は、同様の削剥雪面をスカブラまたはシュカブラ(skavla:ノルウェー語)とも呼んでいる。(R.N.)
擦痕 (さっこん、striation)

Photo 110
礫や岩盤の表面につけられた擦り傷。断層・流氷・地滑り・泥流などの地表面変動、あるいは、岩塩や石膏などが岩石中に化学的に生成される過程によって形成される。氷河の底面と基盤岩との間にはさまれた岩屑によって、氷河底の基盤岩や礫につけられる場合もあり、これらを特に氷河擦痕(glacial striation)と呼ぶ。また、氷河擦痕がついた礫を、擦痕礫あるいは氷食礫という。氷河擦痕の幅や深さは、数ミリメートル程度のものが一般的で、さらに深く広くなったものを氷河溝(glacial groove)と呼ぶ。基盤岩につけられた氷河擦痕や氷河溝は一定の方向に直線的にのびている場合が多く、それを形成した当時の氷河の流動方向を復元する手段として用いられる。複数の方向の擦痕が交差する場合もあり、その新旧を判別することで、氷河の流動方向の変化を復元することも可能である。写真は、パタゴニア南部アマリア氷河末端付近の岩壁に水平方向に見られた擦痕である(Photo: R.N., December 1983)。(T.Sa.)
ざらめ雪 (ざらめゆき、granular snow)

Photo 165
積もった雪の粒子が融解と再凍結を繰り返すことにより丸みを帯びた大きな粒となった雪。語源は粗目(ざらめ)。写真の格子の1目盛りは5mm。寒冷な地域では、「新雪→しまり雪→ざらめ雪」と変化するのが一般的だが、北陸や山陰などの平地では、気温が高く冬期でも常に融解が生じるために「新雪→ざらめ雪」という変化を示すことが多い。しまり雪(C)とざらめ(G)雪の相違は、粒子の直径はC:0.5mm前後、G:1-3mm、密度はC:250-830kg/m3、G:300-830kg/m3程度である。歌謡曲“津軽恋女”では、津軽で降る雪(こな雪、つぶ雪、わた雪、みず雪、かた雪、ざらめ雪、こおり雪)の一つとして数えられているが、ざらめ雪は降る雪ではないので正しくない。(R.N. & S.Y.)
サンクラスト (sun crust)

Photo 118
積雪表面に形成される薄い氷の膜。普通は、その氷膜(クラスト)の下は空洞となっており(写真)、クラストは刺激により容易に割れる。サンクラストは強い日射のもとで形成されるので、このように呼ばれている。晴天、低温で放射冷却が卓越するとき、積雪表面は冷え、融解は起こらず、一方、日射は表面を透過し、直下の雪に吸収され、そこで内部融解が生ずる。かくして、サンクラストの下部は空洞または空隙の多い積雪となる。強い風により形成される積雪表面の殻は、ウィンドクラスト(wind crust)と呼ばれる。写真は、南極の海氷上の積雪表面に形成されたサンクラスト。(R.N.)
酸素同位体比 (さんそどういたいひ、oxygen isotope ratio)

Photo 64
雪氷は水分子(H2O)からなるが、それを構成する水素原子(H)と酸素原子(O)には、普通の水素(質量数1)や酸素(16)よりも重たい水素(質量数2)や酸素(18)が自然界には微量に存在する(同位体と言う)。この同位体は放射能を持たないので、特に安定同位体と呼ばれる。雨や雪などの酸素化合物に含まれる酸素同位体の割合を酸素同位体比と言う。この比は非常に小さい値なので、標準物質(標準海水等)からのずれを千分率(パーミル)で表す。自然界の水は、海、河川、湖、雲(水蒸気)、雪氷など広域に分布しており循環している。循環するときに蒸発や凝結などの相の変化が起きると、同位体比が変わる(同位体分別)。普通の酸素でできた水に比べ重い酸素の水の方が水蒸気圧が低いので、普通の酸素の方が蒸発しやすく、重い酸素の方が凝結(昇華凝結)しやすい。その性質のため、海(酸素同位体比は0パーミル)から蒸発した水蒸気の同位体比は小さくなり(マイナスの値:軽い水と言う)、その水蒸気が昇華凝結して雪(および雨)に変化する過程で、重い水が優先的に雨・雪として降り、残った水蒸気はますます軽くなる。したがって、内陸に降る雨・雪は軽い水となる。
 さらに、このような同位体分別は低温条件下の方が効果的に起こるので、ある地点に積もった雪に含まれる酸素同位体比を調べることで、その雪が夏に降ったものか冬のものか識別することができ、年層を追うことができる。同様の理由で温暖期と寒冷期では同一地点の降雪の同位体比が異なるので、氷河や氷床を掘削して得られた古い氷の同位体比を調べることで、過去の気温の変遷を復元することができる。南極ドームふじ基地(Photo: T.K.)では、氷期の氷の酸素同位体比は-56から-60パーミル、間氷期の氷は-50から-54パーミル程度の値を示している。このように、およそ10万年周期の氷期-間氷期サイクルも主に酸素や水素の同位体比の分析結果からその年代や気温変動が復元されている。(Y.I. & R.N.)
酸性雪 (さんせいゆき、acid snow)

Photo 150
酸性雪あるいは酸性雨(acid rain)とは、pH が5.6以下の雪や雨のことを指す。もともと雪や雨はやや酸性である。これは雪や雨が純粋な水(pH7)ではなく大気中に僅かに含まれる二酸化炭素が自然に溶け込んでいるためである。人為的に硫黄酸化物(SOX)や窒素酸化物(NOX)が大気中に放出され、それらが水に溶けると硫酸や硝酸などの強酸が生じ、これらの強酸のために雨雪のpHがより酸性側にシフトする。このように、環境問題として現象を扱う場合は、pHの絶対値ではなく、人為的な影響が加えられる前と比較してより酸性になったときに酸性雪と呼ぶ。
 酸性の積雪が融解するときにアシッドショック(acid shock)という独特の現象を起こすことがある。これは、融雪の初期に融け水に硫酸や硝酸が濃縮される現象で、酸性雨ではありえない強酸性融解水(pHが2以下になるという報告もある)が植生、土壌、河川などに流出される。季節積雪をもつ中緯度や高緯度地域においてはアシッドショックが自然界の生態系などへ与える影響が懸念されている。(Y.I.)
山麓氷河 (さんろくひょうが、piedmont glacier)
氷床や氷帽からの溢流氷河(outlet glacier)あるいは谷氷河(valley glacier)の下流部が山麓の平野に達し、横方向に扇状に拡がった氷河。アラスカのマラスピナ(Malaspina)氷河がその代表格で、氷河の山麓部の長さが45kmに対し、幅は65kmに及ぶ。写真は、グリーンランド氷床から溢流した氷河が山麓氷河のような形態を示しているもの(Photo: T.K.)。(R.N.)
質量収支[氷河の] (しつりょうしゅうし、mass balance/budget)

Photo 209
氷河や氷床へ雪や氷の出入りのこと、あるいはその収入と支出の差引残高を指す。流域や湖沼の水収支(water balance)の概念を転用し、水を質量に置きかえたものである。氷河の質量収支には、氷河・氷床上の1地点における1年間の雪氷の収支と、氷河・氷床全体の1年間の雪氷の収支と、二つの見方がある。前者は、その地点における1年間の涵養量(雪の堆積、吹き溜まり、雪崩のデブリ、霜などを含む)から消耗量(融解、蒸発、昇華など:ここではプラスで表す)を差し引いたもので、表面質量収支(surface mass balance)または単に収支(balance)とも言う。消耗が涵養より多ければ、収支はマイナスである。氷河の涵養域では、写真の様に表面から穴(ピット)を掘ったり(Photo: S. Kanamori)、雪氷コアを掘削し、年層と年層の間の質量を測定することにより各年の質量収支が得られる。消耗域ではこの方法が使えないので、一般には雪尺で測定する。   後者の質量収支は、氷河・氷床全体の1年間の総涵養量から、総消耗量を差し引いて得られる。実際の観測方法としては、氷河上の多点で表面質量収支を測定し、それらを氷河全域で積分する。さらに、末端が海や湖にカービングしている氷河では、1年間の総カービング量が総消耗量に加わる。氷河全体の質量収支がプラスだと氷河の質量が増し、マイナスだと質量を減ずる。これが長年間続くと、氷河の拡大(前進)、縮小(後退)を引き起こす。 (R.N.)
視程 (してい、visibility)

Photo 138
視程とはいわゆる見通しのことで、気象庁では「地表付近の大気混濁の程度を距離で表したもの」と定義している。方向によって見通せる距離は異なることも多いが、地上気象観測では、見通せる距離が最短となる方位を観測し、視程とする。現在、気象台・測候所においては目視による視程観測、特別地域気象観測所(旧測候所)においては機械(視程計)による視程観測を行っている。目視観測の場合には、あらかじめ目標物を定めておき、それがはっきり見えるかどうかで判断する。そのため、観測所では視程目標図を作成し、観測者の便を図っている。写真は、旧寿都測候所で使用されていた視程目標図(『寿都測候所の歴史』、寿都測候所,2008)を一部切り出したものである。写真には、例えば、雷電山23 km、天狗山10.5 km、診療所230 m等と記入されており、これを参考にして視程を決定する。視程計は、投光器と受光器の間の雲粒や降水粒子の度合いを赤外光を用いて測定し、視程に換算する装置である。
 視程を悪化させる原因としては、雨や雪などの降水現象、地吹雪、もや、霧、煙霧、黄砂などがあげられる。地上気象観測においては、定時観測項目の一つに視程があるが、視程悪化の際には、観測原簿に記事として特記する。例えば、もやや煙霧の場合、視程が10 km以下になったとき初めて「もや、煙霧」と記録する。さらに視程が悪化し2 km以下になればその旨を記す。もやが濃くなり、視程が1 km以下になれば「霧」とする。降水現象や地吹雪の場合は、視程は一般に悪いので、視程1 km以下になって初めてその旨を記録する。黄砂については珍しい現象なので、視程10 km以上であっても観測・記録している。(T.Y.)
地吹雪 (じふぶき、drifting/blowing snow)

Photo 69
降雪粒子または積もった雪粒が強い風により舞い上がり、雪面上または地上を移動する現象。雪粒子の移動様式には、雪面の転がり(creep)、サルテーション(saltation、跳躍)、および浮遊(suspension)の3種類がある。サルテーションとは、雪粒が雪面を飛び跳ねながら風下に流れる現象である。雪粒子が飛んでいる層の上端が、人の目の高さより低い地吹雪(drifting snow)と高い地吹雪(blowing snow)に分けることもある。高い地吹雪のときは視程が著しく低下し、交通障害や野外作業の支障となる。また、一連の地吹雪の後には、地物の周囲に大きな吹き溜まり(snow drift)が形成されることがある。写真は、地球上最北の町の一つ、スバールバル諸島ロングイヤーベーンにおける降雪を含んだ猛吹雪(Photo: Monica Sund)。(R.N.)
しまり雪 (しまりゆき、compacted snow)

Photo 142
雪が解けずに次から次へと積もると、下方の雪の層は上層の荷重で圧密されるとともに、雪粒は丸みをもちお互いに網目状につながるようになる。このような状態をしまり雪と呼ぶ。融解が生じない低温下では「新雪→しまり雪」の変化が起こる。しまり雪の層は密度の増加とともに堅くなる。5m以上積もる新潟などの山岳地域では、下層のしまり雪の層はチェーンソーでなければ歯が立たないくらい堅くなる。写真は、しまり雪の薄片(厚さ数100マイクロメーター)を偏光顕微鏡で見たものである。雪粒ごとに異なる色が付いて見える。紫色の空間は空気の部分である。平地積雪のしまり雪の密度は、標準的には250から400kg/m3程度である。(S.Y. & R.N.)
霜 (しも、frost/hoarfrost)

Photo 141
空気中の水蒸気(気体)が地物の表面に昇華凝結して形成される氷。写真に見られるように、雪の結晶のような樹枝状や針状等の外形を示すことが多い。本質的には雪の結晶と同じものだが、物体の上に形成するので雪の結晶のようなきれいな対称性はない。樹木の枝に成長すると樹霜、窓ガラスにできると窓霜と呼ぶ。外気が非常に寒冷なときの窓霜は室内の水蒸気が昇華凝結するので窓ガラスの内側に、自動車のフロントガラスに付く窓霜は放射冷却により冷えたガラスに大気の水蒸気が昇華凝結するので窓ガラスの外側に成長する。しもざらめ雪は、積雪の内部で雪粒の上に成長する霜である。一方、霜柱(しもばしら)は土中の水が凍結してできた柱状の氷なので、霜という字を書くが、霜ではない。(R.N.)
しもざらめ雪 (しもざらめゆき、depth hoar)

Photo 164
積雪内部で形成される霜。気温が低く積雪が少ない地域では、積雪内部に大きな温度勾配が出来る(地面は0℃なのに対し、雪温はマイナスになるため)。その様な条件下では、隣りあった雪粒の間で水蒸気の昇華蒸発と凝結が繰り返され、もとの雪粒は霜の結晶に変化する。このようにして形成される骸結晶(中空またはコップ状)の雪をしもざらめ雪という(写真撮影:秋田谷英次)。積雪の底部の層に発達しやすい。しもざらめ雪はもろいので、急斜面の積雪底部にしもざらめ雪の層ができると、氷点下の温度でも全層雪崩が起こることもある。一方、積雪の上層にしもざらめ雪の層が形成され、その上に多量の新雪が積もると、しもざらめ雪層が弱層となり、表層雪崩が発生しやすくなる。(S.Y. & R.N.)
樹霜 (じゅそう、air hoar/hoarfrost)

Photo 144
樹木の枝や葉についた霜(写真)。大気中の水蒸気(気体)が昇華凝結により樹木や地物の上に霜の結晶が形成される。霜は雪の結晶の一部の形態をなしている。特に気温が低く、風が比較的弱い時に樹霜は成長する。樹霜と樹氷は一見似ているが、樹霜はフワフワで、樹枝への付着力は弱く、陽が照ったり、風が吹くと容易に破壊、落下する。(R.N.)
樹氷 (じゅひょう、rime)

Photo 127
樹木の着氷を特に樹氷と呼ぶ。霧の中で形成されることが多いので霧氷(むひょう)とも言う。冬季、日本列島の上空2,000m付近の雲の中の温度は-10℃から-20℃程度であるが、小さな雲粒は凍ることがなく、過冷却水滴として存在している。その微水滴が物体に衝突すると、瞬時に凍りつく。写真は、鳥取県氷ノ山(標高1510m)のブナ林の樹氷である(撮影:若桜町・田中修一)。強風下で、液体の雨粒や雲粒が物体に次々に衝突し、風上側に氷が成長したものを、その形の類似から俗にエビのシッポともいう。写真左の枯れ木の幹に、左側(風上側)に歯ブラシの羽のような氷が伸びているのが見られる。これがエビのシッポである。樹霜(じゅそう)は、枝葉の全体に霜がつくが、エビのシッポは風上側にのみに形成されるので、外形がはっきり異なる。また、樹氷は樹霜に比べると物体への付着力が強く、容易には落下することはない。蔵王山にて有名な樹氷は、着雪と着氷との混合物であり、アイスモンスターあるいはスノーモンスターとも呼ばれている。(R.N.)
純氷 (じゅんぴょう、pure ice)

Photo 231
不純物や気泡をまったく含まない氷。常圧で0℃の純氷の密度は917 kg/m3である。氷の密度は温度の低下とともに大きくなり、-20℃では919kg/m3となる。写真は、南極ドームふじ基地にて深さ3,000mから採取された氷コアである(Photo: H. Motoyama)。この氷には微量のイオンや微粒子が含まれているが、地球上の天然の氷としては最も不純物濃度が低いと考えられる。また、氷床深部は非常に圧力が高いため、気泡は氷結晶格子の中にクラスレートとして取り込まれ、氷は透明となる。したがって、南極の氷は純氷に非常に近い、と言える。(R.N.)
小氷期 (しょうひょうき、 Little Ice Age)

Photo 223
西暦13世紀以降、地球上の気候は寒冷化し、19世紀の末まで相対的に寒冷な気候が地球上で卓越した。この期間を小氷期という。小氷期が起こった原因については諸説あるが、太陽活動の変化、火山噴火による影響などが主原因として挙げられている。太陽活動に関連しては、1645年頃から1715年頃にかけて太陽黒点数が著しく少なかった時期(マウンダー極小期)があり、これが地球規模の寒冷化に影響を与えた、という説もある。小氷期には、地球上の多くの地域の氷河が拡大、前進したことが知られている。写真は、エベレストの西側の谷を涵養域にもつクンブ氷河であり、岩屑に覆われた氷河下流域の両側には、堤防状のラテラル・モレーンが発達しているが、これらのモレーンは、数千年前から19世紀にかけて形成されたものであることが地形調査によって明らかになっている。(T. Shi.)
消耗 (しょうもう、 ablation)

Photo 08
氷河・氷床の雪氷の量が減ずる現象の総称。表面での融解が消耗の最も主要な要素だが、これ以外に氷の昇華蒸発、雪の風による削剥があり、また氷河の末端が湖や海(フィヨルド等)に流出している場合は、氷河末端から氷山や氷塊が産出される現象(カービング)も氷河の消耗に含まれる。ある氷河の1年間の涵養と消耗のそれぞれを算出すること、あるいはその差し引き残高のことを氷河の質量収支(mass balance, mass budget)と言う。一般に、氷河の下流域あるいはグリーンランド氷床の周縁部は、質量収支は負、すなわち冬に積もった雪はすべて消失し、その下層の氷も少し融ける。このような地域を消耗域(ablation area)と言う。(R.N.)
昭和基地 (しょうわきち、Syowa Station)

Photo 62
日本の南極観測の主要な恒久基地。1957年1月29日、第1次南極観測隊により東南極のリュツォ・ホルム湾の東オングル(Ongul)島に開設された(南緯69゚00';東経39゚35')。第1次越冬隊では、建物4棟、総床面積178 m2 であったが、2008年では建物60棟、総床面積6800 m2 となっている。写真は、1993年1月の昭和基地の主要な建物を示す。中央右の3階建ての棟は、1993年に完成した初の高層建築物であり、食堂、娯楽室、通信室、医務室、隊長室等がある。写真中央左の、濃オレンジ色の小さい棟は第1次隊の建築物である。日本の観測基地は、この他に、内陸の氷床上にみずほ基地(1976-1987越冬、現在閉鎖中)、あすか基地(1987-1992越冬、現在閉鎖中)、およびドームふじ基地(1995から越冬)がある。(R.N.)
蜃気楼(しんきろう、mirage)

Photo 120
遠くの地物が浮き上がって見えたり、あるいは実際より下方にあるように見える光学的現象。均質な媒質内では光は直進するが、上下方向に空気の密度に差があると、光の経路は密度の高い(光速度の遅い)方向へ曲がる。極地の氷床や海氷上の積雪で、強い放射冷却により雪面近傍の空気が著しく冷却された状態(接地逆転)では、雪面付近が高密度、その上層の空気が低密度となる。その様な場合は、光は上方に凸の経路となり、遠方の雪面が浮き上がり、地平線より上方に存在するように見える。写真はその一例で、南極の海氷上にて、雪上車の向こうの雪面が浮き上がり氷の壁のように見えている(Photo:T.Sa.)。一方、上述の蜃気楼とは逆に、地面付近が著しく過熱された場合は、光は上方に凹の経路となり、空や雲の景色が地平線より下に見えることがある。これは「逃げ水」とも言う。(R.N.)
新雪 (しんせつ、new snow)

Photo 148
降ってくる雪は、気象条件の影響を受け様々な結晶形が含まれ、降り積もって間もなくまだ結晶形が残っている雪をひとまとめに新雪とよぶ。濡れていない新雪の密度はおよそ30〜100kg/m3であり、体積の90%以上は空気である。風がなく低温で大きな結晶が静かにつもると新雪の密度は非常に小さくなる。いわゆるパウダースノ−(powder snow、粉雪)は、標高の高いところや北海道などの寒いところでしばしば見られる、乾いた、軽い、柔らかい雪である。(S.Y.)
水素同位体比(すいそどういたいひ、hydrogen isotope ratio)

Photo 100
雨や雪などの水素化合物に含まれる水素同位体(質量数2:重水素)の割合を水素同位体比と言う(「酸素同位体比」を参照)。氷河や氷床では、酸素同位体比とともに、降雪の季節変化や気温の経年変化の研究に用いられている。酸素同位体比と水素同位体比の重みをつけた差を過剰重水素(deuterium excess)と言う。過剰重水素は降雪をもたらす水蒸気の起源を表す指標として用いられる。例えば日本の降水は台風、南岸低気圧、冬型(西高東低)の気圧配置などさまざまな条件でもたらされるが、それぞれの降水に含まれる過剰重水素は異なる。降水の同位体比や過剰重水素は、その降水がどのような起源でどのように運搬されてきたのかなど、いわば「降水の履歴書」となる。写真は、雪試料のサンプリング(北海道阿寒国立公園、Photo: R.N.)。(Y.I.)
スノーランタン (snow lantern)

Photo 94
雪で作成した灯篭や提灯のようなもの。雪を利用した子ども向けイベントや地域イベントで使われることが多い。スノーランタンという名は、1992年、故福沢卓也氏による命名で、和製英語である。スノーキャンドルとも呼ばれている。アイスキャンドルは水から氷の提灯を作成するのに対し、スノーランタンは雪で作成する。バケツに雪を入れ、中央部の雪をかき出し、逆さにして雪面に置く。中にローソクを入れ火を点けると、スノーランタンとなる(Photo: R.N.)。(K.K.)
スピードアップイベント (speed-up event)

Photo 172
主に山岳氷河で観測される、短期的な流動速度の増加現象。一般的には、数時間から数日にわたって、流動速度が2倍またはそれ以上に増加する現象を指す。氷河底面滑りの一時的な増加がその原因と考えられている。晴天による融解量の増加、激しい雨などによって引き起こされることが多いが、供給される水量と氷河底面の排水能力によって決まる底面水圧の上昇が、より直接的な役割を果たす。したがって、底面に水の抜けみちが発達していない初夏によく観測され、スプリングイベント(spring event)と呼ばれることもある。写真はGPSを用いた流動速度測定のようす(パタゴニア、ペリートモレノ氷河)。(S.S.)
静止衛星 (せいしえいせい、Geostationary satellite)

 

Photos 113 & 114
赤道上空約36,000kmの円軌道を飛ぶ静止軌道衛星のこと。この距離は地球の直径の3倍あり、一度に広域を観測するのに適しているが、高緯度の観測には適していない。この軌道上の物体は地球を1周するのにほぼ24時間かかるため、地上からは静止しているように見える。この軌道に配置された衛星は、地球の特定の地域を常に見ることになり、常時地表を観測することや、通信を行なうことができる。気象衛星ひまわりや各種衛星放送の衛星に利用されている。写真(上)は、南極内陸旅行用の雪上車に設置されたインマルサット通信衛星のアンテナ(撮影:大谷眞二、1999年12月)、(下)は昭和基地に完成したインテルサット通信衛星アンテナ(撮影:中山由美、2004年1月)。昭和基地では、インテルサット通信 により大容量のデータの送受信が可能になり、インターネットやテレビ会議システム もできるようになった。昭和基地の”通信革命”と言われ、極地研究スタイルが変わ りつつある。 (H.E.)
積雪 (せきせつ、snow cover/snow pack)

Photo 145
積もった雪の総称。積雪の深さを積雪深(snow depth)、および積雪深に密度を掛けて雨量に換算した量を積雪水量(snow water equivalent)と言う。冬の初期に積もった雪が春まで融けて消えることない積雪を、一般には根雪(ねゆき)と言うが、気象庁では積雪の長期継続期間(略:長期積雪)という用語を使っている。1年以内に融けて無くなる雪を季節積雪(seasonal snow)と言う。積もってから1年を超えた雪を、俗に万年雪、雪氷学ではfirn(ファーン、フィルン)と呼ぶ。氷河の上流域(涵養域)および極地氷床の大半の地域は、表面は1年目の積雪、その下はファーンでおおわれている。積雪(またはファーン)の密度が830kg/m3を超えると通気度がなくなり、氷と定義されている。(R.N.)
積雪深計 (せきせつしんけい、snow depth gauge)

Photo 201
気象庁では、積雪深の観測に超音波式または光電式の2種類の積雪深計を用いている。超音波式積雪深計では、観測用ポール上部の感部から超音波が発射され、雪面に反射して戻るまでの時間を測定し、雪面までの距離を求める。光電式では、超音波の代わりにレーザー光を用いる。感部から地面までの距離と、感部から雪面までの距離の差が積雪深となる。光電式はレーザー光を用いるため、ビーム発生部を覗かないよう注意せねばならない。 積雪深計の設置にあたっては、周囲の建物などに近すぎる場所や吹きだまりができるような場所を避ける必要がある。音波の速度は気温によって変化するため、超音波式積雪深計は温度計とともに設置する。気象庁のアメダス観測網のうち、積雪深計が配置されているのは約290ヶ所である。積雪深計のない有人観測点においては、雪尺や物差しにより積雪深を目視で観測している。(写真:帯広測候所の積雪深計)(T.Y.)
雪渓 (せっけい、snow patch)

Photo 91
春から夏にかけて山岳地に点在して残る積雪のこと。狭義には字の如く、沢筋や谷底の残雪を雪渓と呼び、開けた場所の平坦な残雪を雪田と呼ぶこともある。写真は、登山者に馴染みの深い白馬大雪渓(Photo: T. Matsumoto)。雪渓は冬期に雪が多く溜まる場所、あるいは夏期に雪が解けにくい場所に存在する。前者としては雪が吹き溜まりやすい山稜の風下斜面と、雪崩のデブリが堆積する谷底が代表的である。雪が解けにくい場所は、日陰になりやすい北向き斜面と深い谷の中である。雪が夏の終わりまで残り、その上に秋の新雪が積もり雪渓が越年することもある。このような雪渓を一般には万年雪とも呼ばれるが、言葉を正しく使うとすると多年性雪渓(perennial snow patch)と呼ぶべきである。単純に言えば、多年性雪渓がさらに大きく成長すると氷河となる。現在の日本には氷河はないが、北海道の大雪山系や本州の北アルプス等に数多くの多年性雪渓が存在している。(R.N.)
雪線 (せっせん、snowline/firn line/equilibrium line)

Photo 147
雪線は、本来の定義以外の様々な用法が混在し、注意を要する用語である。山岳氷河では、涵養域(accumulation area)と消耗域(ablation area)との位置的境界を均衡線 (または平衡線equilibrium line)というが、この境界線は一般的に年により大きく昇降するので、長期にわたる平均的位置を雪線と言い、これが本来の雪線の定義である。雪線の高度は、赤道直下ではおおむね海抜4500m付近にあり、両極にむけて低くなる傾向があるが、高度・緯度だけで決まるものではなく、降雪や気温などのローカルな気候要因、風向きや斜面方向などの地形的要因などに左右される。雪線の位置を正確に求めることは困難なため、概念的にならざるをえない。
 他の用法との誤用を避けるために地形的雪線(orographic snowline)と呼ばれることもある。地形的雪線は個々の氷河の固有値であるため、ある地域の代表値とする場合に広域的雪線(regional snowline)が用いられることもある。これは地形的要因を排除できることから、その地域の気候を代表する値と考えて良く、気候的雪線(climatic snowline)とほぼ同義である。気候的要因によって雪線高度が下がればその地域の氷河は拡大(前進)し、雪線高度が上がれば縮小すると考えるのが一般的である。
 一方、通俗的には、山頂部に積雪がみられる景観の中で、積雪域と無積雪域との境界線を指すのに用いられることが多い(写真:大山、1729m) 。この雪線(季節的雪線seasonal snowlineとも言う)は、初冬から真冬にかけて高度を下げ、夏に向かって上昇し、その様子は観察によって容易に認定できる。季節的雪線が広く用いられているのは、本来の定義が概念的なものであるのに対して、このように具体的で身近なものだからであろう。万年雪がある場合は、初雪が降る直前まで、いずれかの高度に積雪域と無積雪域との境界線が維持される。これを「その年の雪線 (annual snowline)」という。また、山岳氷河が存在する場合、同様の時期には、氷河表面に積雪がある上流側の範囲と氷河氷が露出している下流側の範囲とに境界線ができる。これを指す用語としてフィルン線 (firn line)が別に定義されているが、「その年の雪線」が同義語として用いられることも多い。フィルン線は、通常は均衡線と一致するので、均衡線の同義語としても「その年の雪線」が用いられる場合もある。(T.Sa.)
接地線 (せっちせん、grounding line)

Photo 206
氷床や氷河の周縁(末端)が海や湖へ流出しているとき、陸上の氷体と水に浮いた氷体(棚氷という)との境界線のこと。接地線では、原理的には氷の荷重と水の浮力とが釣り合っているので、その地点付近の氷厚の約10%が海水面上に、真水の場合は約8%が水面上に現れている。氷床・氷河の表面または底面にて氷の融解が進んだり、力学的作用により接地線付近の氷厚が減少すると、接地線は(一般的には)内陸方向へ移動する。逆に、氷厚が増加すると接地線は前進する。このような接地線の移動は棚氷のカービング率を変化させるので、結果として氷床・氷河の前進・後退に大きな影響を与える。
 接地線の位置は、氷床・氷河表面の傾斜が平坦に変わることにより容易に推測できることがある。写真は南極の白瀬氷河で、左右(横断方向)に何本もクレバスが見られる部分が棚氷、その奥の急傾斜部が氷流である(Photo:T.Sa.)。その境界付近に接地線が存在すると考えられる。(R.N.)
雪庇 (せっぴ、snow cornice)

Photo 223
山岳の稜線の風下側などに、風で運ばれた雪によって形成される特殊な積雪堆積形状。地形、降雪量、風によって様々な形となる。風下側が急斜面の場合は、鋭く伸びた庇(ひさし)状となるものもある。欧米では、これを典型的な雪庇と考えているようである。風下側の傾斜が緩いと、庇の張り出しは短く、吹きだまり状となる。「雪庇」という言葉からは、稜線から長く伸びた庇を想像しがちであるが、吹きだまりの先端に庇がついたものと考える方がよい場合もある。そのため、名称について再考が必要という意見がある。
 本州中部の日本海に近い山岳では、降雪量が多いため、稜線から数十メートルも張り出す巨大な吹きだまりが形成される例がある。北アルプス・大日岳の調査(2005年4月)によると、稜線から風下側に、長さ約30m、先端部では地面から約20mの高さという巨大な吹きだまりが形成されていた。大日小屋付近から山頂方向を望んだ写真を示す。画面中央と手前の二つの岩は稜線近くにあるので、それより右側はほとんどが吹きだまりである。2005年の大日岳、2008〜10年の立山室堂平における雪庇(吹きだまり)断面の観察から、その発達過程がある程度推定できる。初期には小規模な吹きだまりができ、圧密により表面が低下し、それを埋めるように、また風下側に伸びるように雪が吹きだまる。途中で庇が形成されるがすぐに変形して垂れ下がり、巻き込み、ときには崩れ落ち、それをさらに吹きだまる雪が埋めていく。これを繰り返しながら大規模になっていく。断面には、垂れ下がり巻き込んだかつての庇が、何段階も見られる。内部には雪の変形で生じた割れ目も見られる。
 雪庇は登山者にとって危険な積雪形状の代表格とされているが、その実態はまだ充分明らかになったとはいえない。大日岳では2000年3月に、稜線から風下方向に40m以上も張り出した吹きだまりの先端側3分の1くらいのところから破断して巨大な雪ブロックが崩落し、巻き込まれた2名が死亡する事故が起こった。破断面は稜線から27m風下側で、崩落した雪ブロックは風下方向15mにも及ぶ大きさであった。2005年調査の雪庇より、さらに長さ、高さとも約10m大きかったと推定されている。雪庇ということばから張り出した庇部分にのみ注意していては危険である。雪庇崩落により雪崩を引き起こすことも多い。山間部の道路や鉄道などの雪害対策でも注意すべき点であり、現場では柵などの雪庇形成防止対策がとられている。(K.Y.)
雪氷 (せっぴょう、snow and ice)

Photo 210
雪や氷のこと。一般には氷雪(ひょうせつ)とも言う。雪や氷を研究する学問を雪氷学(glaciology)と呼び、その分野では雪や氷を総称するときは、雪氷と言う。雪氷調査、雪氷域、雪氷圏、雪氷現象、雪氷利用、雪氷災害などの熟語としても使われる。降雪の雪片や雪結晶は氷結晶でつくられており、積もった雪が圧密し通気度がなくなると(密度830 kg/m3以上)塊りとしての氷となる。自然界でこのような雪と氷で構成されている物は氷河、氷床、氷帽、氷原などである(Photo: T. Shi.)。一方、液体の水が凍結した氷には、海氷、湖氷、河氷、つらら、地中氷、道路氷などがある。(R.N.)
雪氷圏 (せっぴょうけん、cryosphere)

Photo 72
地球上で雪や氷が存在する地域のこと、あるいは氷河、氷床、積雪、凍土、海氷など、雪や氷でできた物体そのものの総称としても使われる。雪氷圏は、高緯度地方、および中低緯度の高山地域に分布する(写真:アラスカ・マッキンレー山の氷河.Photo: S. Kanamori)。北海道や本州の日本海側地域は、冬季は積雪におおわれるので雪氷圏になる、と言える。地球温暖化などの気候変動にともなう雪氷圏の面積や体積の変動は、アルベド変化による吸収日射量変化、水循環変化、海水面変動、生態系変化などを引き起こし、地球環境に大きな影響を与える。クリオスフェア(cryosphere)の訳語として雪氷圏とともに寒冷圏もほぼ同じ意味で使われる。(R.N.)
雪氷生物 (せっぴょうせいぶつ、glacial organisms/psychrophilic organisms)

Photo 134
低温環境に適応し、生活史のほとんどを氷河や雪渓などの雪氷上でおくる生物のことをいう。例えば、動物では、カワゲラやトビムシ、ユスリカなどの昆虫類、コオリミミズ(写真:アラスカの氷河にて)、ヒョウガソコミジンコ、クマムシ、ワムシなどである。これらの動物は氷点に近い温度で活動するが、中には氷点下10度から20度でも活動できるものもいる。これらの動物の餌となっているのが、雪氷藻類という雪氷上で光合成して繁殖する藻の仲間である。分類的には、主に緑藻とシアノバクテリアの仲間で、世界各地に数十種報告されている。これらの生物の遺体などの有機物を分解するバクテリアも雪氷上に生息している。氷点に近い環境で繁殖するバクテリアは好冷菌と呼ばれ、DNAの分析から世界各地の氷河から数十種報告されている。このように氷河や雪渓の上には、低温環境に適応した特殊な生物で構成される生物群集が存在し、雪氷上で食物連鎖が成り立っている。これらの生物群集を含む氷河は、比較的単純で独立した生態系とみなすことができる。雪氷生物が、低温環境で活動することができるのは、体内に特殊な生理機構を持っているためであるが、詳しいことはまだわかっていない。雪氷生物は、南極、北極のほか、山岳氷河、季節積雪、海氷表面など、ほぼ世界中の雪氷上で生息が確認されている。(N.T.)
雪氷藻類 (せっぴょうそうるい、snow algae)

Photo 135
雪氷上で光合成して繁殖する藻の仲間のこと。スノーアルジー、あるいは氷雪藻ともいう。分類的には、主に緑藻とシアノバクテリア(cyanobacteria)の仲間で、世界各地に数十種報告されている。繁殖には液体の水が必要で、おもに春から夏にかけて解けている雪氷表面上で繁殖し、完全に凍りついた氷点下の冬季の雪氷上では繁殖できない。雪氷藻類の大繁殖は、積雪を赤や緑に着色することがある。緑藻の仲間(写真)は、細胞の大きさが5〜50マイクロメートルの単細胞生物で、顕微鏡で見ると細胞内に緑色をした葉緑体や、赤い液胞、核など、さまざまな細胞内器官が確認できる。繁殖の条件が整うと、無性生殖により細胞分裂し増殖する。繁殖の条件が悪くなると、減数分裂により配偶子を形成し、2つの配偶子が接合後、休眠胞子となる。休眠胞子は、乾燥後風によって大気中に分散され、条件の整った雪氷上に落下したものが再び繁殖すると考えられている。また、胞子は積雪消滅後に土壌中で休眠し、冬になって再び積雪に覆われた後、春に融解が始まると遊走子となり積雪中の融解水を泳いで辿り、積雪表面にあらわれて繁殖するという説もある。しかし、その生活史はまだ分からないことが多い。
 シアノバクテリアは、主に氷河の消耗域の氷の表面やクリオコナイトホール(cryoconite hole)内で繁殖する。シアノバクテリアは核のないバクテリアの仲間で、地球上でもっとも原始的な微生物としても知られる。氷河表面のシアノバクテリアは主に糸状のもので、鉱物粒子や他の有機物粒子と絡まりながら、クリオコナイト粒とよばれる粒状の構造を形成する。その構造は古代のシアノバクテリアが形成したとされる構造物、ストロマトライトによく似ている。(N.T.)
雪氷微生物 (せっぴょうびせいぶつ、psychrophilic microbes)

Photo 136
氷河や雪渓など雪や氷の上で繁殖する特殊な微生物のことをいう。一見きれいな雪や氷にもさまざまな微生物が含まれていることがある。光合成をして繁殖する雪氷藻類(snow algae)や、それを食べるワムシやクマムシの仲間、これらの生物遺体を分解するバクテリアなどの微生物である。写真は、雪氷微生物の代表的なシアノバクテリア(cyanobacteria)である。微生物の大きさは、ワムシやクマムシで数百マイクロメートル、雪氷藻類が数十マイクロメートル、バクテリアが数マイクロメートルである。ただし、このような微生物を含む雪や氷を人間が口にしても、ただちに有毒であるという報告はいまのところない。雪氷表面でこのような微生物が大繁殖すると、雪氷が赤や黒に色がつくことがある。もともと色の白い雪氷に色がつくと、表面のアルベドが低下し、日射の吸収が増えて雪氷の融解が促進される。したがって、微生物の繁殖が積雪や氷河の融解を速めることがある。また、過去環境復元の目的に氷河から掘削したアイスコアにも、雪氷微生物が含まれており、過去の雪氷微生物の種類や繁殖量の復元、さらにその情報を過去環境の指標として利用することができる。(N.T.)
セラック (serac)

Photo 214
氷河上に見られる塔状の氷の塊。氷塔。seracはフランス語(eの上にアクセント記号)。氷河中流域のアイスフォールや、懸垂氷河の下部、カービング氷河の末端付近など、氷河の急流部における複雑な応力場にて、縦横のクレバスが発達するとき氷塔群(セラックス)が形成される。セラックは、天候、気温等を問わず、いつでも崩壊し得るので、登山者等にとっては常に危険が内在している。氷河の流動とともにセラックスが氷河下流域に移動すると、氷の融解によりさまざまな奇怪な形状となることもある。写真はソレール氷河末端部における、融解が進んだセラックス。(R.N.)
前進[氷河の] (ぜんしん、advance)

Photo 09
氷河の末端(terminus/snout/tongue)が下流方向へ前進すること。いま仮に、ある年を境に気候が変化し、降雪量の増加あるいは融解量の減少が起こると、氷河上各点の雪と氷の厚さが年々少しずつ増し、その結果流動速度が徐々に増大し、氷河の末端が低高度(すなわち温暖な地域)へ移動する。この現象が氷河の前進である。逆に、降雪量の減少あるいは融解量の増加が起こると、氷河の後退(retreat)が起こる。一般的には、前進したときは氷河の長さのみではなく、幅、厚さが増し、後退したときはそれらが減る。  世界各地の山岳地では、過去1世紀間、後退している氷河が多いが、地域によって、あるいは流域によっては、前進または平衡(定常)を示している氷河もある。その一例が写真のペリート・モレノ氷河である(Photo: Pedro Skvarca)。紫と緑色の線は1899/1900年の氷河末端で対岸から1km以上離れていたが、1920年頃末端が前進して対岸に達し、それ以降現在までは黒と青の線の付近で細かく年々変動している(すなわち、ほぼ平衡)。なぜ、この氷河がパタゴニアの中で特異な振る舞いを示しているかは未解明である。(R.N.)
タイドウォーター氷河 (tidewater glacier)

Photo 02
海またはフィヨルド内に末端が流出し、海水にカービングしている氷河や氷床のこと。日本語に訳すと、潮水氷河となる。氷河舌が浮いている場合は潮汐により日夜昇降し、着底している場合は氷河底面の水圧が潮汐とともに変動し、陸上の氷河と比べて特異な動力学的状況にある。氷床および氷河の全消耗(質量損失)量に占めるカービング量の割合は、南極氷床:97%、グリーンランド氷床:57%、山岳氷河と氷帽:7%という見積もりがあり、両氷床および北極氷帽からの溢流氷河はすべてタイドウォーター氷河なので、このタイプの氷河の重要性が分かる。写真はフィヨルドの入り江にカービングしているサン・ラファエル氷河。一方、湖などにカービングしている氷河は、fresh water(真水)氷河、lacustrine(湖水の)氷河、等と呼ばれる。(R.N.)
ダイヤモンドダスト (diamond dust)
大気中で氷晶(ice crystals、直径がおおよそ0.1mm以下の小さな氷の結晶)が浮遊、もしくはゆっくり落下している現象。太陽からの日射によりこれらの氷晶がきらめくことから名付けられた。和名では細氷とも言う。気象学や雪氷学においては、ダイヤモンドダストとはこのような「特殊な大気状況」を示す言葉ではあるが、日常的には「きらめいている物体(氷晶)」を示す言葉として使われる場合もある。極地に限らず、北海道においても、非常に寒冷な時、青空のもとからキラキラと氷の結晶が降ってくることがある。(T.K.)
第四紀 (だいよんき、Quaternary)

Fig. 106
地質時代区分のうち、新第三紀に続く、現在を含む最新の時代。最後の氷期が終わった約1万年前を境にして更新世と完新世に細分される。四という名称は、かつて地質時代を第一紀から第四紀に四分したことに由来しているが、第一紀と第二紀は、それぞれ古生代と中生代になり、第三紀は古第三紀と新第三紀に分割されたため、第四紀だけが現在もそのまま使われている。図は新生代の時代区分を示す(右コラムは層序の定義を審議する機関名)。ヒト属の出現をもって第四紀が始まったとされ、従って、より古い原人が発見されると第四紀の始まりもより古くなるという宿命がある。現在では、260万年前に始まったとされている。  第四紀は氷期と間氷期が頻繁に繰り返されてきた時代でもあり、氷河時代(glacial epoch)とも呼ばれる。他の紀に比べて格段に短く、地質年代区分として分ける意義が疑問視されることもあり、最近では新第三紀鮮新世に併合しようという動きもある。しかし、「人類の時代」という意味が込められている意義は大きく、また最新の時代であるがゆえに、それ以前の地質時代に比べて詳細な復元が可能であり、これらの点を重視する第四紀研究者は、しぶとく併合に抵抗している。(T.Sa.)
ダートコーン (dirt cone)

Photo 78
氷河や雪渓上でときに見られる土砂で被われた(汚れた)円錐。一例を写真に示す。土や砂や岩屑はアルベド(反射率)が雪や氷に比べて低いので、土砂の被覆が薄いと雪氷の融解が促進され、その部分が周囲の氷の表面より低くなり、窪みが形成される。その一例が、クリオコナイトホールである。一方、土砂に厚く被われると、土砂の表面は日射を吸収して温度が+30−40℃にもなるが、土砂の下の氷を融かす熱源は土砂層内の伝導熱のみであり、周囲より融解速度が小さくなる。その融解抑制の結果、円錐状の凸形起伏が形成される。融解促進と抑制との境界の厚さは、土砂等の物質にもよるが、おおむね数mmである。ダートコーンの表面の土砂を取り除くと、多くの場合内部も氷の円錐となっている。(R.N.)
棚氷 (たなごおり、ice shelf)

Photo 156
氷床の一部が海に張り出し、水に浮いている部分のことを言う。氷床と棚氷の境界を接地線(grounding line)と呼ぶ。南極氷床全体の約10%は棚氷である。棚氷の一部が割れて切り離されると、巨大なテーブル型氷山が形成される。西南極の棚氷から、ときに淡路島程度の大きさ(約50kmx10km)の氷山が流れ出ることがある。棚氷では標高が低いため南極の中でも比較的気温が高く、夏季には表面の雪や氷は少し融ける。近年の温暖化により棚氷表面の融解が多くなり、融解水がクレバスなどの割れ目に浸透し、氷の強度が低下し、棚氷が崩壊しやすくなっている、という主張もある。また、棚氷の存在が上流の氷床の安定性に大きな役割を果たしており、棚氷が消失すると氷床の流動速度の増大、その結果氷床の縮小・崩壊に進むという考えもある。写真は、南極白瀬氷河の先端の棚氷(Photo:T.Sa.)。表面にはかなり規則的な大規模なクレバスが見られる。(R.N.)
谷氷河 (たにひょうが、valley glacier)

Photo 33
谷を埋め、流れ下る氷河。氷河の形態による国際分類(IHD, 1967)の一つで、山岳氷河(mountain glacier)の代表的なもの。広義の氷河には、氷床(ice sheet)、氷帽(ice cap)、氷原(ice field)を含むが、狭義の氷河は谷氷河、懸垂氷河、山麓氷河などを指す。両岸が急峻な谷の中の氷河は、落石や雪崩により岩塊や岩屑が供給されるので、氷河表面はモレーンに被われることも多い。氷河の後退により、谷の横断方向にターミナルモレーンの丘が取り残される。谷氷河が消失した後には、谷の横断面の形状がU字谷を呈することが多い(Photo:T.Shi.)。(R.N.)
ターミナルモレーン (terminal/end moraine)

Photo 216
氷河により運ばれた岩屑が氷河末端に堤防状または不規則形の山状に堆積した地形のこと。エンドモレーンとも呼ばれる。日本語では、端堆石堤、終堆石堤と言う。岩屑が運搬される機構は、大きく分けて、氷河側壁から氷河表面に落下した岩屑が表面の氷に乗って移動すること、および氷河の底面にて削り取られた岩屑が氷河の底面滑りにより引きずり、または押されることである。氷河が長期間変動せず、末端が同一地点に留まっていると、そこに大きなターミナルモレーンが形成される。写真のモレーンの山は高さが100〜200m程ある。氷河が後退する過程で、停滞する期間があると、ターミナルモレーンが何列かつくられる。モレーンの中に木片等の有機物が見つかると、炭素同位体法によりモレーンの形成年代に関する有用な情報が得られる。(R.N.)
ダンスガード・オシュガー・サイクル (Dansgaard-Oeschger cycle/event)

Photo 213
グリーンランド氷床コアの酸素同位体比(=気温の指標)変動にみられる、最終氷期中に繰り返し起こった温暖・寒冷の気候変動のこと。一つのサイクルは、数10年間の急激な温暖化、温暖な亜間氷期、数100年間の緩やかな寒冷化、寒冷な亜氷期、という顕著な気候の振動を示す。この現象を氷コア(GRIP/GISP2)から最初に見出したW.DansgaardとH.Oeschgerの名前をとって、ダンスガード・オシュガー・サイクル(またはイベント、出来事、振動)と言う。用語が長いので、単にD-O cycles, D-O events、D-O oscillations等とも略されることがあるが、略称として広く認知されているわけではない。最終氷期(85,000年間)には24〜25回のサイクルが知られている。周期解析により約1,500年周期が卓越しているという研究もあるが、最終氷期を通した平均周期は3,000〜4,000年となる。
 D-Oサイクルの原因について最も有力な仮説は、北大西洋域をおもな「沈み込み」の場所とする海洋大循環の影響である。また、急激な温暖化はハインリッヒ・イベントの影響が議論されているが、因果関係が明確になっているわけではない。なお、南極の氷コアからはこのD-Oサイクルは認められないが、これよりやや周期の長い数1000年スケールの南極同位体極大(Antarctic Isotope Maxima)は明瞭であり、北極と南極が交互に温暖期と寒冷期を繰り返す両極シーソー現象(bi-polar seesaw)と呼ばれ、そのメカニズムおよび相互の影響のしくみが注目されている。写真は、グリーンランドの氷コア掘削キャンプNorth GRIPを示す(Photo: H. Motoyama)。(Y.I. & R.N.)
炭素同位体年代法 (たんそどういたいねんだいほう、radiocarbon dating)

 

Photo 104
放射性炭素年代測定法ともいう。大気圏上層で窒素原子(14N)が宇宙線と反応すると放射性炭素(14C)が生成(14N+n→14C+H)する。14Cは放射性元素であり、一定の壊変速度(半減期5730年)でβ崩壊して14Nに戻るため、大気圏内では放射平衡が成立しており、常に一定の割合で14Cが存在している(厳密には宇宙線強度が変動することにともなって、14Cの濃度はわずかに増減する)。この14Cの化学的特性は一般的な炭素(12C)と変わらないため、CO2として炭素循環サイクルによって生物の体内に取り込まれる。生物が生きていて光合成や採食を行っている間は炭素循環に対して開放系であるが、死ぬことによって閉鎖系が成立する。閉鎖系の成立後、14Cは放射壊変を起こし、遺体内の14Cの量が一定の半減期で低下していく。この14Cの減衰を利用して、個体が死亡した時点からの経過時間を測定する年代測定法が炭素同位体年代法である。   14Cの現存量の測定には、β壊変にともなう放射線量を測定する液体シンチレーション法と、加速器を用いた質量分析によって14C/13C比を直接計測する加速器質量分析(AMS)法とがある。前者では約3万年間、後者では6万年前までの年代測定が可能であり、最終氷期までをおおよそカバーすることができる。写真は、日高山脈エサオマントッタベツ川流域のターミナルモレーンに隣接する斜面堆積物中から発見された木材遺体である(Photo: T.Sa.)。AMS 14C年代測定によって、12.3 cal ka の年代が得られた。(T.A.)
地球温暖化 (ちきゅうおんだんか、global warming)

Photo 168
全地球の平均気温は、研究者の解析の仕方により多少差があるが、20世紀初めから1940年頃まで約0.3℃程度上昇し、1940年頃から1970年頃までは寒冷化に転じ、その後現在に至るまで再び上昇を示している。これらを総合すると、過去100年間で約0.6-0.7℃上昇したことが明らかになっている。これが、昨今注目されている地球温暖化である。もし、世界各地の気象台等の観測データを調べてみると、もっと著しい温度上昇が認められることが多い。これらのデータには、大なり小なり都市気候の影響が含まれており、海洋や砂漠、森林を含めた全地球の平均値よりは一般に温度上昇率が高くなる。したがって、地球温暖化を抽出するためには、都市域の影響を誤差として取り除かなくてはならない。一方、今後21世紀末までの100年間は、温室効果ガスの増加により温暖化傾向が加速し、全地球平均で2℃から4℃程度上昇すると予測されている。地球温暖化の結果、海水温上昇と山岳氷河の融解による海水面の上昇、陸上および海中の生態系変化、食糧問題、異常気象多発などが懸念される。(R.N.)
地中探査レーダ (ちちゅうたんされーだ、ground penetrating radar)

Photo 146
大地表層の地中数十mを探査するためのレーダ装置。略してGPRと呼ばれる。大地が濡れていると電波の浸透が大幅に制限されるため、実際は数mまでの観測が主な用途である。雪氷は濡れた大地に比べ電波が浸透するため、商用の地中探査装置が雪氷観測にも多用されている。用いられる周波数は主に100MHz以上で、低周波のものは厚さが200m程度未満の比較的乾いた氷河の厚さ測定などに、高周波のものは雪氷の表層10m程度までの密度構造の観測などに用いられている。(K.M.)
着雪 (ちゃくせつ、snow accretion)

Photo 162
物体に雪がつくこと。とくに電線やアンテナ線のように、細くて雪が積もりそうにない物体に雪が太くつく現象を指すこともある。湿った雪が大量に降ると着雪が起こりやすく、電線着雪では、雪の重みと風の力により電線が切れたり、鉄塔が倒壊することがある。樹木の枝葉に着雪し、帽子のように積もった状態を冠雪(かんせつ)ともいう(写真)。樹氷は氷、冠雪は雪、モンスターは両者の混合である。(R.N.)
着霜 (ちゃくそう、air hoar/hoarfrost)

Photo 140
大気中の水蒸気(気体)が樹木や地物、窓ガラス等に、霜の結晶として昇華凝結したもの、およびそれらの現象のこと。冬季、よく晴れた夜間、放射冷却により冷えやすい金属やガラス(写真)等に先に着霜する。霜の結晶は非対称な雪の結晶なので、樹枝状、針状、柱状の形態をなすこともある。特に樹木の枝や葉についた場合を樹霜(じゅそう)と言う。 (R.N.)
着氷 (ちゃくひょう、rime/icing/ice accretion)

Photo 73
氷点下でも凍っていない雨粒や雲粒が物体に衝突し、直ちに凍結してできる氷およびそれらの現象のこと。着氷する物体によって、航空機着氷、電線着氷などとも言う。海水のしぶきが船体やマストに凍りつくのが船体着氷である。多量の着氷が船体に着くと、船の重心の位置が変化し、大きな波浪の際転覆の危険性が増す。(R.N.)
地理情報システム (ちりじょうほうしすてむ、Geographic Information System)

Fig. 232
地理情報を使った数値的、視覚的解析を行うためのツール。英語名の頭文字をとりGIS(ジーアイエス)と呼ばれる。位置情報を扱うため、数値地図(DEM: Digital Elevation Model)が必要。GISのために数多くのパッケージソフトが開発されている。GISは、土壌や植物分布、土地利用、国政調査結果など広範な分野で利用されている。雪氷学では、一例として、気象台とアメダスの気象データ、DEMデータ、植生データをもとに、日単位の融解量、積雪水量分布予測のモデル計算が行われている。また氷河地域では、人工衛星データからグリッドセル毎に氷(雪)、水、その他の陸地、等の判定を行い、氷河と周辺湖の変動解析等が行われたりしている。解析結果の一例として、チベット高原南部マパム流域において、ASTER イメージ(2003年)とDEM(1974年空中写真より)から、グリッドセル(28.5m)毎の1974-2003年間の変化を図に示す(濃青:湖沼、薄青:氷河、赤:後退氷河域、黄:前進氷河域、ピンク:後退湖沼域、など.Courtesy of Qinghua Ye)。(K.K. & R.N.)
つらら (icicle)

 

Photos 222 & 126
水が重力の作用により流下する途中で凍結し、鉛直方向に成長する細長い逆円錐状の氷の棒。上方から次々に供給される水は、つららの表面を流れ、一部の水は途中で凍り、一部の水は先端で凍り、余った水は先端から滴り落ちる。すなわち、つららは自ら太くなりながら長さ方向にも成長する。つららの表面には、太さが周期的に変化する波模様が形成される。その波の波長は数mmから2、3cm程度であり、流量や凍結条件によると考えられている。つららができるための必要条件は、ある場所にて、水として存在し得る条件と凍結する環境が共存していることである。よく見られる家屋のつららは、氷点下の気温のとき、屋根上の雪が屋内からの排熱と日射により融解し、その融解水が軒先から流れ落ちる途中で凍結し、氷となったものである(写真[上]:札幌、時計台)。自然の河川の滝にも、つららが形成されることもある。写真[下]の氷は(撮影:若桜町、田中修一)、初冬(2002年11月)の積雪の急速融雪により、融水の流れが地形の段差から落下するとき凍結したもので、氷は宙吊りになっており、まさしくつららである。(R.N.)
ツンドラ (tundra)

Photo 67
ツンドラは主に高緯度の寒帯地域に見られる。定義としては永久凍土地帯で立ち木のない草本類、蘚類、地衣類などが生育する地表面状態を言う。また自然地理学では、ツンドラは、低温で植物の生長可能期間が短いため樹木が生長できない地域を指す。ツンドラには木が生えているところもあり、ツンドラと森林地帯との間の移行帯(生態上の境界地帯)は樹木限界線と呼ばれる。ツンドラ地帯では夏期の気温が低く、活動層が薄く非常に少ない降水量でも地表面が湿潤な状態になり、沼地や湖等を含んだ湿原になる。ツンドラ地帯の永久凍土層には二酸化炭素やメタンなどの温室効果ガスが蓄積されている。地球温暖化にともなう永久凍土の融解の影響はツンドラ地帯で最も強く、温暖化による永久凍土の融解はこれらのガスの放出を促し、温暖化を加速させる可能性がある。(H.Y.)
停滞氷 (ていたいごおり、stagnant ice)

Photo 217
流動がほとんど認められないか、完全に停止している氷体や氷河を指す。厚いデブリに被われた氷河末端付近では、デブリの断熱作用のため氷の融解が抑制され、古い氷が消失せず平坦な薄い停滞氷となっていることがよく見られる(写真)。また、氷河の縮小にともない、氷河本流から切り離された小さな氷体は停滞氷になりやすい。デッドアイス(dead ice)と呼ばれることもある。氷河サージの後、氷河の後退とともに下流域に氷体が取り残されると停滞氷となり得る。そして、次のサージの際、サージの波が上流から伝播し、停滞氷が活動を再開することもある。氷河の末端位置や面積の変動を地上や衛星データにて調査する場合、停滞氷を除いた活動的な氷河の末端を識別したいことがあるが、多くの場合それはかなり困難である。(R.N.)
定着氷 (ていちゃくひょう、fast ice)

Photo 86
海岸に接して形成された動かない海氷。氷床末端の氷壁や座礁した氷山に固着した海氷も含む。その場所で凍結した海氷と、流氷が集まって凍結した氷とがある。定着氷は潮汐により上下動を起こすので、岸との間にタイドクラック(tide crack)がしばしば形成される。南極周辺には、生成後2年以上の多年生の定着氷が多くある。南極観測船「ふじ」や「しらせ」が昭和基地に“接岸”というのは、基地に埠頭があるわけではなく、定着氷のどこかに錨を下ろすことである。(R.N.)
底面滑り (ていめんすべり、basal sliding)

Photo 173
氷河や氷床がその基盤上を滑るかのようにして生じる氷の流動メカニズム。氷が底面で融解している場合に起きる。岩盤の小さな突起が水膜に埋められる潤滑現象、突起の上流側に氷が押しつけられて生じる氷の集中的な変形、突起下流側の水隙内の圧力による氷の押し出し、復氷など、さまざまな微視的現象が底面滑りのメカニズムだと考えられている。氷河底面の水圧が底面滑り速度と関係が深いため、融解量が多い季節や時間帯に氷河の流動速度が増加する大きな原因となっている。厚い氷の下で起きる現象なので観測が難しいが、岩盤に達する掘削孔中に特殊な装置(糸巻きを使った変位計など)を挿入したり、岩盤のトンネルから氷河底面にもぐりこんで測定を行なう例もある。写真はフランス・アルジェンティエール氷河の底面に車輪を押しあてて、底面滑り速度を測定している様子。(S.S.)
ティル (till)

Photo 108
氷河の流動によって運搬された岩屑が、淘汰作用をほとんど受けずに地表面に累積した堆積物。現存する氷河の表面・内部・底、およびその周縁、ならびに過去の氷河拡大範囲内に分布している。ミクロンサイズの細かい粘土から家ほどもある巨礫まで、さまざまなサイズの岩屑が無秩序(無層理・無淘汰)に累積しているという特徴がある。このような特徴を持つ堆積物は通常ダイアミクトン(diamicton)と呼ばれ、ティルはその中の氷河起源のものである。ティルは、最初に堆積した位置によって氷河表面ティルと氷河底ティルに大別されろ。
 堆積後に氷河の流動や融解、あるいは周囲の地形変化によって二次的に堆積構造が変化し、その過程も考慮して様々に分類されている。特に、氷河内部に取り込まれていた岩屑が氷河の融解に伴って氷体外に出てきたものをメルトアウトティルといい、氷河の周囲に丘状のモレーン地形や顕著な地形をなさないグラウンドモレーンを構成する。また、氷河底の圧力融解や他の機械的プロセスで氷体が地表面を滑ることがあり、この動きによって、岩屑が地表面に塗り込まれてロッジメントティルが形成されたり、一旦堆積したものが変形させられてデフォーメイションティルができたりする。長い年月とともにティルが固結して岩石化したものをティライト(Tillite)という。ティライトは熱帯地域から見つかることもあり、8-6億年前頃に全地球が凍結していた時期があったという「スノーボールアース仮説」の裏付けともなっている。(T.Sa.)
デブリ氷河 (でぶりひょうが、debris-covered glacier)

Photo 79
表面が岩屑(がんせつ、またはティル,till、またはデブリ,debris)に覆われた氷河のこと。岩屑被覆氷河とも言う。周囲の岩壁等から岩屑の供給源が多い氷河は、デブリ被覆氷河となりやすい。デブリ氷河はヒマラヤ、ニュージーランド、南米のアンデス山脈に多く分布する。日本人研究者はこのようなデブリ氷河をD型氷河、またデブリで覆われていない氷河をC型氷河(clean type glacier)と呼ぶこともあるが、この呼称はあまり推奨されていない。写真は、ネパール(クンブ地域)のクンブ氷河下流部を左岸側から撮影したもので、左手に末端が見える。
 高い岩壁に囲まれた氷河涵養域では、氷や雪と共に岩屑が氷河上に堆積する。岩屑は氷河氷とともにゆっくりと流れ下り、氷河下流部で氷が融けるにつれて析出・堆積するため、末端に行くほど厚い岩屑に覆われる。また氷河氷が大量の岩屑を運ぶため、氷河の周囲にモレーンが発達するのが一般的である。氷河上の岩屑の層が数cm程度の薄い場合は裸氷よりも速く融解するが、岩屑層が厚くなるにつれ断熱効果のため融解が抑制され、厚さが1m以上になるとほとんど融解しない。岩屑に覆われていない一般的な氷河は末端に向かうほど標高が低いため気温が高く融解が進み、質量収支変動に応じて末端が前進後退するが、デブリ氷河では、末端に近いほど岩屑が厚くなる(厚さ数mにも達する)ので、氷河末端付近ではほとんど融解せず、末端位置も顕著には変化しない。(A.S.)
凍土 (とうど、frozen ground)

Photo 66
凍土とは0℃以下の状態の土または岩を指す。2年以上連続してこの状態が続くものを永久凍土、またこの状態が冬期だけに起こるものを季節凍土と呼ぶ。凍土の内部には、水平なレンズ状のアイスレンズや、垂直方向の割れ目が氷で満たされたアイスウェッジ(氷楔:ひょうせつ)等、さまざまな形態の氷が形成される。写真は、ロシア・ヤクーツク近郊の永久凍土であり、層内にアイスウェッジが見られる(Photo:H.Y.)。土が凍るとき、下層から吸い上げられた水分が凍り、氷が形成されると地表面が隆起する。この現象が凍上(frost heave)であり、寒冷地で家屋が傾いたり、道路に凹凸や亀裂が生じることがある。凍土は力学的強度が大きいので、軟弱地盤を人工的に凍結させて、地下工事を行うこともある。 (R.N.)
ドームふじ (Dome Fuji)
日本南極観測隊が設置した内陸の観測基地。氷床の中で、周囲より高まった地形をドームと言う。東南極氷床の中央部に近い位置(南緯77゚19';東経39゚42')にある標高3810mのドームがドームふじ(Photo:T.K.)と名付けられ、日本の観測基地が設置され、2005/06年の南半球の夏に、氷厚3000m強の氷床底部までの氷コア掘削が行われた。(R.N.)
ドラムリン (drumlin)

Photo 102
氷河の流動方向に細長く伸びた流線型の氷河地形。砂礫などの堆積物で構成されるもの、基盤岩だけのもの、それらが複合したものなど様々な種類があり、構成物やスケールに関わらず、氷河底の地形営力に関わる流線型地形であるということのみで判定される。写真は、南極・宗谷海岸の露岩域にみられるドラムリンの集合体で、基盤岩が浸食されたタイプに分類される。類似の氷河地形に羊背岩(roche moutonnee)があるが、羊背岩が、上流側に緩斜面、下流側に急斜面を持つのに対し、ドラムリンはその逆で、平面形態は氷河流動方向の下流側に細長く伸びている。多くのドラムリンが集合してドラムリン・フィールドとよばれる一帯を形成している場合が多い。語源は「丘の頂稜」という意味のガリア語 driumに由来し、アイルランドでdroimninという術語として用いられたことにはじまる。
 地表物質が氷体と接しながら引きずられてできるとする氷底変形説と、氷底を流れる水によって浸食(あるいは堆積)されてできるとする氷底水流説とがあり、30年以上にわたって論争が続いている。この問題は氷河底の地形形成プロセスと深く関係しているため、氷河地形学の当該研究分野ではドラムリン論争として象徴的に用いられることもある。なお、火星に水があったとされる地形的根拠の一つに涙目状の流線型地形があり、ドラムリンの氷底水流説のアナロジーとして用いられている。 (T.Sa.)
雪崩 (なだれ、avalanche)

Photo 129
斜面に積もった雪が、何らかの引き金により崩れ、重力の作用により流れ下る現象。雪崩は、表層雪崩(surface-layer avalanche)と全層雪崩(full-depth avalanche)の2種類に大きく分けることができる。表層雪崩は、斜面積雪の上層のみが滑り落ちるもので、乾いた(水分を含まない)、柔らかい新雪の場合は、雪煙を上げ、時速数十キロメートル以上の高速の雪崩にもなり得る。表層雪崩は、積雪内部の力学的に弱い層(弱層という)がその上層の雪の荷重を支えられずに破壊し、弱層が滑り面となって斜面を流下するものである。弱層となる雪には、a)霰(あられ)、b)平板状のきれいな結晶、c)表面霜、d)しもざらめ雪、e)濡れざらめ雪の5種類が知られているが、これ以外にないとは言えない。弱層の上に、数十センチメートル程度の新雪が積もると、荷重が増加し、弱層破壊の危険度が高まる。したがって、表層雪崩は、吹雪の最中またはその直後(翌日)に、スキーヤーや登山者の刺激が引き金となり、起こりやすい。つまり、表層雪崩は、初冬、厳冬期、春、および昼夜を問わず発生し得る。写真は、表層雪崩の直後の雪崩跡(提供:北海道の山岳会、撮影者不詳)。
 一方、全層雪崩は積雪全体が斜面を滑り落ちるものである。著しい融雪または降雨により、積雪底面と地面(土、草、石等)との間に水が存在すると発生しやすい。したがって、全層雪崩は冬の温暖な日や融雪期に起こりやすい。このように、表層雪崩と全層雪崩とは、発生条件、形態、特性とも著しく異なるものである。気象庁では、降雪期は大雪の恐れのある場合、融雪期は気温が高くかなりの融雪が予想される場合、いずれも単に雪崩注意報として発令している。したがって、一般には、雪崩は暖かいときに起こる、という誤解を招きやすい。(R.N.)
南極 (なんきょく、Antarctica)

Photo 61
地球の自転軸が地表と交わる地点(南極点)を中心とした地域。およそ南緯70度以南には、平均氷厚2450mの氷床でおおわれた南極大陸が存在する。1年の内で太陽が沈まない日(白夜)が1日以上存在する地域は、南緯66度33分以南であり、南極圏と呼ばれる。国際的な南極条約では、南緯60度以南を南極地域として法の適用範囲としている。なお、南極氷床の内、日本の活動地域を含む東経領域を東南極(ひがしなんきょく)、アメリカ隊が多く活動してきた西経領域を西南極と言う。写真は、雪上車による氷床内陸旅行(第14次越冬隊)。(R.N.)
二酸化炭素収支[森林の] (にさんかたんそしゅうし、carbon dioxide budget)

Photo 204
森林の二酸化炭素の出入りのこと。単に炭素収支とも言う。樹木は、光合成により二酸化炭素を吸収し、植物体内に炭素を蓄える。一方、植物の呼吸によっても炭素を放出する。その差し引きが樹木の二酸化炭素収支であり、収支が正、すなわち炭素の蓄積が放出を上回った場合、樹木はその収支差額の炭素の分だけ体積を増大させる。一般に若い木は収支が正となるが、成長が弱まった大木は収支がほぼゼロである。一方、森林内の草や笹なども同様に炭素を吸収したり放出する。また、林床の土壌中では、地中生物の呼吸および多数の微生物による落ち葉等の腐食により二酸化炭素を放出している。したがって、森林の二酸化炭素収支という場合は、樹木、草本、土壌を含む森林生態系すべてにおける収支を考えなくてはならない(写真:鳥取県大山のブナ林)。この収支は、昼夜および季節によっても大きく変動する。そのため、世界各地で観測されている大気中の二酸化炭素濃度は、夏季に低下、冬季に増加という顕著な季節変動を示している。(R.N.)
ヌナタック (nunatak)

Photo 115
氷床や氷原、氷帽から突き出た岩峰のことをいう。多くの場合、かつては頂上まで氷に被われていたので、岩肌は著しく氷で侵食されている。日本の南極観測隊が過去に調査を行った、やまと山脈、ベルジカ山脈、セールロンダーネ山地はみなヌナタックスである。写真は、白瀬氷河側方の独立峰ボツンヌーテン・ヌナタックであり、最高峰の標高は1,486 m、周囲の氷床表面の標高は約1,000 mである。 (R.N.)
根雪 (ねゆき、long-term snow cover)

Photo 203
冬から春まで長期間続く積雪をいう。ひと冬の積雪の経過は、初雪が降り、何度か積雪と消雪を繰り返した後、降雪が頻繁になりまた量も多くなると、いったん形成された積雪が消雪することなく順次増加していく。積雪は地域(緯度)や標高による違いはあるがおよそ2〜3月に最大となる。新潟県南部の中山間地における積雪最大期の風景を写真に示す。その後、春になり気温の上昇とともに融雪が進んで、最終的に消雪するのが一般的である。いったん消雪した後に、短期間の積雪が生じることもある。この冬から春まで継続して存在する積雪を根雪、その期間を根雪期間という。
 生活や産業の大きな制限要因となる積雪がどの程度の期間存在するかは、重要な気候的指標の一つである。しかし根雪という言葉は生活の中から生まれた言葉であり、地方ごとに違うともいわれ、厳密な定義は難しい。これに近いものは、気象庁の定義する「積雪の長期継続期間」、略称「長期積雪」である。長期積雪は、30日以上継続した積雪をいう。ただし10日以上継続した積雪の期間が二つ以上あり、隣り合う積雪期間のあいだの無積雪日または欠測の合計が5日以内の場合は、二つの期間を通じて積雪は継続したものと見なす。(K.Y.)
年輪年代法 (ねんりんねんだいほう、tree-ring dating/dendrochronology)

Photo 163
一年に一層ずつ成長する樹木年輪を利用して年代を決定する方法。年輪の生長度合いはさまざまな環境条件によって変化するが、樹種と時代・地域を限定すれば、その樹種のどの木でも共通した変動パターンが現れる。それぞれの樹種と地域について年輪幅の年々変動の標準パターンを作成し、年代を測定したい樹木の年輪パターンと比較し、パターンが一致する年代を探すことによって年代を決定することが可能となる。この年代測定法は統計的誤差がなく一年単位で年代決定が可能なことが大きな特徴となる。ただし、樹木の枯死・伐採年と特定すべき事象の年代が一致するか否かということや、製材の際に最外周部の年輪が残されているか否かといった問題が残るため、年代の解釈には注意を要する。氷河研究では、氷河の前進にともなってティルに埋積された樹木や、氷河湖の拡大によって枯死した樹木の年輪パターンを利用して氷河変動の年代を決定するなどに用いられている。(T.A.)
ハインリッヒ・イベント (Heinrich event)

Photo 212
最終氷期に北アメリカ大陸北部のローレンタイド氷床から、大規模な氷山群の流出が起こり、それにともない氷山に付着していた岩屑が北大西洋の広域にまき散らされた出来事のことを言う。1980年代、北大西洋の広い地域の深海底堆積物コアに、陸生の粗粒の岩屑を含む層準が最終氷期を通じてほぼ周期的に数層存在することが明らかにされた。このデブリ層は、ローレンタイド氷床がハドソン湾方面に流出する際、氷床底面にて削り取られた岩屑が氷山に付着したまま北大西洋へ漂流し、氷山の融解により海底に堆積したものと考えられた(Ice Rafted Debris)。この現象を最初に発見、提唱したドイツの海洋地質学者H. Heinrichに因んでハインリッヒ・イベントと呼ばれるようになった。
 ほぼ同時代に、グリーンランド氷床コアの解析との対比から、このイベントはダンスガード・オシュガー・サイクルの数回に1回の割合で、寒冷期の最盛期に起こったことが明らかになり、ハインリッヒ・イベントの後に急激な温暖化が始まることが分かった。
 ローレンタイド氷床から準周期的に氷山群が流出する現象は、氷床の涵養が進み、氷厚が増し、氷床底面が不安定になったとき、氷床の末端(写真は現在のグリーンランド氷床.Photo: H. Motoyama)が短期間のうちに海へ押し出し、多量な氷山が氷床から分離、流出した出来事と考えられているが、詳しいメカニズムは未解明である。また、このイベントにより多量の低温な純水が北大西洋へ供給されるので、海洋循環へ、したがって気候へ大きな影響を与えたことは疑いないが、その仕組み、因果関係についてはさまざまな議論が提唱されている。(Y.I. & R.N.)
パタゴニア氷原 (ぱたごにあひょうげん、Patagonia Icefield)

Photo 236
南アメリカ大陸南端部パタゴニア地域のチリ・アルゼンチン国境をまたいで広く覆う氷河群のこと。チリではHielo Patagonico、アルゼンチンではHielo Continental Patagonicoと呼ばれていたので、以前はそれを英訳または和訳してパタゴニア陸氷、大陸氷、氷床と表すこともあった。しかし、UNESCO/IASH (1970)の氷河分類には陸氷や大陸氷という形態はないので、1980年代から日本の研究者等が提案して、パタゴニア氷原と称することにした。現在は、北パタゴニア氷原(Hielo Patagonico Norte; Northern Patagonia Icefield)と南パタゴニア氷原(Hielo Patagonico Sur; Southern Patagonia Icefield)の二つに分かれている。小さい方の北氷原は南北約100 km、面積4,200 平方km、大きい方の南氷原は南北約350 km、面積13,000平方kmであり、前者からは28、後者からは48の顕著な溢流氷河が東西南北に流出している。写真は、それらの内の代表的なピオ11世(Pio XI)氷河である。写真の奥(上)が南パタゴニア氷原で、手前に溢流した氷河が北(左)と南(右)のフィヨルドに分かれてカービングしている。(R.N.)
パドル (puddle)

Photo 119
水たまりのこと。海氷用語では、水に浮いている氷(海氷、棚氷、氷山等)にできる融解水の水たまりのことを指す。融解がすすみパドルが発達すると、やがてパドルの底が抜け、開水面やポリニヤとなる。日射が、海氷表層の氷を透過し、海氷内部で吸収され内部融解を起こすことがあり、その場合は表面が氷で内部にパドルが形成される。パドルの表面が結氷し、その上に新雪が積もると、パドルの存在を識別しにくく、雪上車のパドル踏み抜き事故が起こりやすくなる(写真)。(R.N.)
バルハン (snow barchan)

Photo 117
雪面に形成される吹き溜まり模様の内、三日月状の形態を示すものを雪バルハン、または単にバルハンと呼ぶ。地吹雪の過程で、風上側に弓形の凸が向き、風下の左右に尾根状に伸びる。高さは1m以内で、雪は一般に軟らかい。砂丘や砂漠に見られる馬蹄形のバルハン(barchan dune)と形成メカニズムは類似である。(R.N.)
ハロ (halo)

Photo 151
巻層雲などの薄い雲を通して太陽を見たとき、太陽の周囲に見られる色づいた弧状の模様。太陽の暈(かさ)ともいう。ハロは、巻層雲内の六角板や六角柱などの氷晶(小さい氷の粒)にて光が屈折、反射して生ずるもので、太陽の回りの定まった角度の位置に見られる。写真は、南極の氷床にて、雪上車の屋根上の黄色回転灯で太陽を遮って撮影したものである。大きな円は内暈と呼ばれる。ハロの種々の弧には、さまざまな名前がつけられている。虹(にじ、rainbow)は、大気中の雨や霧粒(すなわち液体の水)にて太陽の光が屈折、反射して生ずるもので、太陽を背にして(すなわち、夕方なら東の空に、朝なら西の空に)見える。 (R.N.)
氷室 (ひむろ、storehouse for ice/snow)
昔、池や川の天然氷を夏まで保存するために設けた貯蔵用の室や地下の穴。藁などで厚く覆って断熱した。同様に雪を保存するためのものは雪室(ゆきむろ)というのが一般的だが、雪を保存しても‘氷室’と呼ぶ地域やその逆もある。最近、雪氷冷熱エネルギーが法的に新エネルギーとして位置づけられ、雪氷の利用が見直されている。野菜や酒の貯蔵あるいは冷房に雪を利用する試みも増えている。(Y.T.)
白夜 (びゃくや/はくや、midnight sun)

Photo 107
地球の地軸は公転面に対して23.4度傾いており、この傾きの方向は公転面に対して常に一定である。このため、地球が太陽を一周するうちの半分の期間、北極点と南極点のどちらかは一日中太陽の方向を向いていて日が沈まない。この両極をとりまく概ね緯度66.6度までの地域(北極圏、南極圏)でも、緯度により長短があるが一日中太陽が沈まなくなる季節がある。こうして真夜中でも太陽が地平線上に見られる現象を白夜という。写真は、南極・昭和基地の白夜期(2006年12月)に沈まぬ太陽を時間をおいて連続撮影したものである。また、完全に太陽が昇っていなくても、地平線直下にあるうちは空が薄明るいまま(薄暮)なので、そのような状態も白夜に含まれる。白夜の逆は一日中太陽が昇らない現象で極夜 (polar night)という。(T.Sa.)
雹 (ひょう、hail)

Photo 230
積乱雲の中で、小さい氷の粒や霰(あられ)のまわりに過冷却水滴の雲粒(うんりゅう)が付着、凍結して大きな氷の球形に成長し、地上に落下したもの。雪結晶の国際分類の一種。気象庁では、落下した氷の粒の直径が5mm以上を「ひょう」、5mm未満を「あられ」と判定している。氷の粒が大きくなると落下速度が増すので、大きな雹に成長するためには強い上昇気流をもつ雲が必要である。雹が降るのは、夏を中心とした暖候期が多い。雹の降下により農作物や人畜、諸施設に被害を与えることがある。アメリカ大陸などでは、直径5cmを超える雹の観測例もある。写真は、落下直後に融解しつつある雹。(R.N.)
氷河 (ひょうが、glacier)

Photo 54
山岳地の斜面をおおったり、谷や窪地を埋めた氷や雪の大きな塊のこと。これは狭義の氷河であり、山岳地に形成されるので山岳氷河(mountain glacier)ともいう(Photo:E.Isenko)。広義の氷河には、南極やグリーンランドの氷床(ice sheet)、北極の島々の氷帽(ice cap)をも含める。氷河は、降り積もった雪が融けきらずに何年にもわたって残り、積雪が自分の重みで圧縮されたり、融けたり凍ったりする過程を繰り返すことにより形成された氷からなる。氷河の定義、あるいは氷河と呼ばれるための必要条件は、1)降雪からできた大きな氷雪の塊、2)陸上に存在していること、3)現在あるいは過去に流動したこと、の3つの要素を満たすことである。1)の条件のため、滝や河が凍った氷瀑や河氷は氷河とは言わない。2)の条件により、海に漂う氷山は氷河ではない。山岳地の雪渓は、3)の条件を満たさないので、氷河に含めない。しかし、気候変化により雪渓が大きくなると氷河となり、逆に氷河が縮小すると雪渓と見なされることもある。(R.N.)
氷河期 (ひょうがき、glacial epoch)
氷河時代と同じ意味。(T.Shi.)
氷河湖 (ひょうがこ、glacial lake)

 

Photos 82 & 83
氷河末端の前面や氷河側岸に形成される湖。支流の河川が本流の氷河により堰き止め られた湖(ice-dammed lake)、および氷河の侵食作用により作られた凹地に水が貯ま った氷食湖、モレーン(堆石)により堰き止められた湖(moraine-dammed lake)等の 種類がある。ヒマラヤの氷河は風化の激しい高山に囲まれているため、氷河が流動するにしたがって山肌から落ちた大量の土砂を運び、末端に大きなモレーンを形成することが多い。このため氷河が後退すると、氷河末端とモレーンとの間に氷河融解水を貯留する天然のダム湖が形成される。写真(上)にネパール・イムジャ氷河湖(2001年11月)を示す。氷河(氷ダム)によって堰き止められた湖は、湖の水位がある高さを超えると氷河が浮き上がるため、湖水が氷河の下から流出し、湖の水が排出し終えると再び氷河が河川を堰き止め水を貯める。このため繰り返し洪水が起こることが多いが、比較的小さな洪水ですむ。一方モレーンによって堰き止められた湖が決壊する際は、モレーンが一気に破壊されて起きるため決壊を繰り返すことはないが、ピーク流量が大きく、大量の土砂をともない流域に甚大な被害をもたらす。ヒマラヤでは、1960年代以降多くの氷河湖が拡大し、少なくとも14回、3年1度の頻度でモレーンのダム湖が決壊した。このような洪水は氷河湖決壊洪水(Glacial lake outburst flood)、その頭文字をとってGLOFと呼ばれるようになった。
 1985年に起こったディグ・ツォー氷河湖の決壊洪水では下流の発電所が洪水のため跡形もなく流失するなどの大きな被害を及ぼした。写真(下)は、ネパールヒマラヤ・リピモシャー(Ripimoshar)氷河にて1991年7月に決壊したモレーンのダムを下流から見たものである。背景の山は、Tshoboje(ツォボジェ)。(A.S.)
氷河時代 (ひょうがじだい、glacial epoch)

Photo 238
地球の歴史46億年において、地球上に大規模な氷床が存在した時代を氷河時代あるいは氷河期と呼ぶ。先カンブリア時代、二畳紀-石炭紀、新生代などは大規模な氷床が存在したため、氷河時代である。以上のような定義があるものの、実際の使用においては氷期と氷河時代(あるいは氷河期)とは同義として扱われ、しばしば第四紀の中の氷期を氷河時代あるいは氷河期としている例も多い。写真(Photo: H. Motoyama)は、現在のグリーンランド氷床の周縁部である。(T.Shi. & R.N.)
氷河舌 (ひょうがぜつ、glacier/ice tongue)

Photo 207
氷河や氷流の下流部分が舌のような形状で海や湖や陸上に伸びたもの。氷舌(ひょうぜつ、ice tongue)とも言う。海に流出した氷河舌は水に浮いていることが多い。棚氷との違いは、氷河舌は幅に比べて張り出し方向に長いことである。写真は、東南極の氷床から海へ流出しているメルツ氷河の氷舌(左:海に浮いている)と氷山(右:番号B9B)の衛星写真(ESA ENVISAT: 2010.1.7)である(Photo: Courtesy of Neal Young, ACE CRC & AAD)。この約1か月後、面積約2700平方kmの巨大氷山B9Bが西に漂流してメルツ氷河舌に衝突し、氷河舌が氷河から分離(カービング)し、新たに面積2500平方kmの氷山が誕生した。(R.N.)
氷河洞穴 (ひょうがどうけつ、glacier cave/ice cave)

Photo 105
氷河の内部にあいた洞穴。氷体内を流れる融解水、あるいは、氷体に覆われた火山の地熱や熱水(水蒸気)などによって形成され、それらの流路となる。氷体内にチューブ状に形成されたもの、上部だけを氷体が覆い、下部や側面には地表や基盤岩が露出しているものなど、様々なタイプがある。写真の洞穴は南極・宗谷海岸の氷河に形成されていたものである(2006年10月)。普通はなかなか見られない氷河底や内部を観察できる絶好の場所であるが、突発的に水流が発生したり氷体が崩落したりすることもあり、内部に長時間滞在することは非常に危険である。(T.Sa.)
氷河ハザード(ひょうがはざーど、glacier hazard)

Photo 225
ハザードとは、危険となったり、損害を引き起こす可能性のある事象のことを言う。したがって、氷河ハザードは、危険(リスク)や災害の原因となり得る氷河の現象を指す。具体的には、火山噴火にともなう氷河からの泥流(ラハール)、氷なだれ、氷河湖決壊洪水(GLOF)、岩盤の凍結・融解に起因する落石や土石流などがある。ハザードには、偶発性という要素を含むので、氷河上でのスリップとか、クレバスへの転落や、氷塔の崩壊、カービングなど、日常茶飯事的な危険性、災害可能性は含まない。一般にハザードとリスク(risk)・災害(disaster)とは比例関係にはない。ハザードが大きくても、防御設備や対策が強固に備わっているとリスクは低く、逆にハザードが小さくても対策が弱ければ(脆弱性が高ければ)リスクは高い。写真は、ペリート・モレノ氷河の氷ダムの崩壊の瞬間である。しかし、このダム決壊により特に実質的な災害、被害は発生していない。(R.N.)
氷河変動 (ひょうがへんどう、glacier variation/change)

Photo 122
氷河の形、大きさ、構造等が時間とともに変化すること。広義には、氷河の運動の状態、およびそれに影響をおよぼす氷体の温度、排水システム等の変化をも含むが、一般的には氷河の規模の変化に限ることが多い。氷河変動には、氷期−間氷期の万年オーダーから100年、10年、年々、季節、日々、毎時までの短いタイムスケールがある。写真は、湖にカービングしているパタゴニア・ウプサラ氷河の末端付近で、上は1993年11月、下は1999年3月である(Photo: Pedro Skvarca)。氷河や氷床において比較的容易に測定可能な氷河変動は、A)氷河末端の前進(advance)・後退(retreat)、B)氷河の面積変化、C)氷厚変化、およびD)質量収支変化の4種類である。
 このうちAは現地観測でも航空写真や人工衛星データの解析でも比較的簡便、容易に調べることが可能で、世界中の多くの氷河で長期間の多数のデータが集積されている。しかし、これは氷河変動の一次元情報に過ぎず、気候変化や水資源の観点からは、BとCを組み合わせた体積変化(三次元情報)あるいは質量収支変化の方が重要かつ価値が高い。気候変化の影響により氷河や氷床の形が新しい定常状態に近づくまでの年月を応答時間(response time)という。山岳氷河の応答時間は数年から数100年であり、気候変化と氷河変動の関係を議論するときには、この長い時間を考慮に入れなければならない。(R.N.)
氷河末端 (ひょうがまったん、glacier terminus/snout)

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氷河の下流側の端のこと。英語ではterminusと言うことが多く、それの翻訳として終端とすることもあるが、あまり一般的ではない。また、氷河研究者によってはsnoutもかなりよく使われるが、その語義は「(ブタ等の)突き出た鼻」なので、氷河末端付近の形態によっては適切ではない、と言う研究者もいる。同様に、氷河の下流部分が舌のように突き出ているとき、その部分を氷舌(glacier tongue)と呼ぶこともある。この場合、氷舌の端が氷河末端である。一方、氷河の氷は上流から下流に流れているという観点からは、氷河の下流端は先端とも見ることができるので、氷河先端(glacier front)とか先端変動(frontal variation)と言うこともある。氷河末端は陸上に位置する場合と、海や湖にカービングしている場合とがある。前者の氷河では、末端の下流側にターミナルモレーンの丘を形成することがある。後者の氷河では、カービング活動の強弱により末端位置が激しく変動することがあるので、一般的には末端変動を気候変動の指標とはみなすことができない。(R.N.)
氷期 (ひょうき、ice age/glacial period/glacial stage)

Fig. 77
第四紀とよばれる最近の170万年間は、高緯度地方に大規模な氷床が分布し、地球の気候が寒冷化と温暖化を交互に繰り返した時代である。おおよそ8〜9万年続く寒冷な氷期と、2〜1万年続く温暖な間氷期とで、1周期約10万年のサイクルが第四紀には継続して生じた。氷期には、大規模な氷床が高緯度に形成されるため、海面は現在よりも100〜130mほど低下していたことがわかっている。氷期、間氷期と一対で使うことが多い。
 図は、南極ドームふじ基地の氷コア解析から明らかとなった氷期−間氷期の変動を示す(図提供、渡辺興亜: 「ドームふじ深層掘削計画」および渡辺・藤井・神山(2002)より)。青い線は二酸化炭素濃度、赤い線は気温の指標(酸素同位体組成)を示す。図の左端が現在、右端が32万年前である。氷期は新しい時代から順に次のように名づけられている(北米の呼称。カッコ内はヨーロッパアルプスの名称)。W:ウィスコンシン(ビュルム)氷期、I:イリノイ(リス、ミンデル)氷期、K:カンザス(ギュンツ)氷期。また、Hは完新世、Sはサンガモン間氷期である。(T.Shi.& R.N.)
氷原 (ひょうげん、ice field)

Photo 210
山脈の主稜線に沿って広く拡がる平原状の氷河を氷原と呼ぶ。氷河の分類の一形態であるが、氷床よりは規模の小さいもの。氷帽は山の頂部をおおうのに対し、氷原は山間部を埋めるように分布することもある。アラスカの太平洋岸や南米パタゴニアに発達している。写真は、アラスカ南東部のバグリー氷原である(Photo: T.Shi.)。パタゴニアの大氷河群は、現地国ではHielo Patagonico(パタゴニア氷)と呼ばれていたので、日本の氷河研究者等がPatagonia Icefieldと名づけた。氷原の表面は雪原(snow field)となっていることが多い。(R.N.)
氷山 (ひょうざん、iceberg)

Photo 26
棚氷や氷河の末端が割れて海に流れ出た大きな氷の塊。テーブル型、円丘状、ピラミド型など、さまざまな形がある。南極周辺海域では、棚氷からカービングした大きなテーブル氷山がしばしば見られる。観測史上最大の氷山は、2000年3月に南極のロス棚氷から分離した巨大氷山で、長さ295 km、幅37 km、面積11,000 km2は鳥取県と島根県をあわせた面積に相当する。氷山は、海に浮いている場合も、一部が座礁している場合もある。純氷の密度は917 kg/m3、気泡を多少含むと910 kg/m3程度、海水の密度を1028 kg/m3とすると、海に浮かぶ氷山は全体積の11%のみが水面上に現れている。氷山は、海流、潮流、風により海洋を漂流しつつ、氷の崩壊と融解によりさまざまな形態に変化し、いずれは融けて消滅する。
 氷山の氷は、氷床や氷河の上に積もった雪を起源としているので、純度の高い真水で出来ている。そのため、南極周辺の大氷山をタグボートで引っ張ってアフリカや南米の乾燥地帯の水資源に利用しようという机上の計画が検討されたこともあったが(1980年頃)、技術的にはともかくとしても、経済的に全く見合わないので立ち消えとなった。(R.N.)
氷床 (ひょうしょう、ice sheet)
大陸のような広大な地域を氷でおおう大規模な氷河を氷床と呼ぶ。現在の地球上では、南極とグリーンランドにのみ存在する。氷期にはスカンジナビアからヨーロッパ北部にかけて、および北米大陸北部等に大規模な氷床が発達したことが知られている。現在の南極氷床で最も氷が厚いところは4,500mを超える。南極氷床の直径は約4,000km、平均の氷の厚さを約2,000mとすると、横と縦の比は1700対1となり、氷床は薄いシート(sheet)状の氷と言える。写真は、南極氷床とヌナタクス(露出した岩峰)である。(R.N.)
氷床コア (ひょうしょうこあ、ice core)

Photo 161
氷床から採取された氷コアを特に氷床コアと呼ぶ。南極の各地から採取された氷床コア中の酸素や水素の同位体組成、二酸化炭素やメタン等の温室効果ガスの濃度、火山灰やダスト、エアロゾルなどの含有量、および氷組織の微視的な解析等が行われ、過去の気候環境等が詳しく明らかにされてきた。海底や湖底の堆積物にくらべると、降雪量の少ない南極氷床の内陸地域でも年間に数ミリメートルは積もるので、1年間の層の厚さが大きく、時間分解能が高いという利点がある。日本の南極観測隊により、2006年1月ドームふじ基地にて深さ3,028.5mまでの掘削が行われ(写真:JARE-47)、72万年前から現代にいたる氷期−間氷期の繰り返しを含む地球環境の変遷が明らかにされつつある。(R.N.)
氷上湖 (ひょうじょうこ、supraglacial lake/pond)

Photo 84
氷河表面に形成される湖を指す。小さな湖は氷上池(supraglacial pond)とも言う。湖と池を区別する定義はない。湖が大きい場合、湖の下に氷河氷が存在するかどうか不明であることが多い。氷上池/湖は、極地以外の氷河において融解期にしばしば形成されるが、氷河内水脈とつながると湖/池の水は排水されることがあり、安定して存在しない。氷河内水脈が発達していない場合や、モレーンなどで融解水が堰き止められて氷河内の水位が高い場合、氷上池/湖は安定して存在し、拡大して氷河湖となる場合もある。
 デブリ氷河にできた氷上池では、池で温たまった水が氷河内水脈を通る際に、周りの氷を融解し水脈を拡大させるため、水脈天井の陥没がおこり、さらなる新しい池を形成することがある。この結果、氷上湖は氷河の消耗を促進する役割を果たす。デブリ氷河上の池では、周囲の一部が写真(Lirung氷河)のように氷壁で囲まれていることが多い。(A.S.)
氷雪 (ひょうせつ、ice and snow)

Photo 239
氷や雪のこと。雪氷と同じ意味。地方によっては、あるいは一般社会では、雪氷(せっぴょう)よりも発音しやすいため、氷雪の方が使われることが多い。例えば、稚内市の慰霊碑が「氷雪の門」と呼ばれたり、地域のイベントの名称やサービス業の店の名前に「氷雪・・・」と銘打つのがときどき見られる。ケッペンの気候区分の内、最も寒冷な気候区(最暖月の平均気温が0℃未満)を氷雪気候と言う。現在の地球上では、氷雪気候に該当する地域は南極氷床とグリーンランド氷床の内陸部(写真:標高3,000mのNGRIPキャンプ、H. Motoyama撮影、June 2003)のみである。(R.N.)
氷底湖 (ひょうていこ、subglacial lake)

Photo 47
氷河や氷床などの底部に液体の水が溜まっている湖。通常は直接観察することは不可能で、その上を覆う氷体の表面が比較的平坦になることから、その存在が推定できる。また、アイスレーダーなどの物理探査によって間接的に存在を確認することができる。南極氷床の下には100個を超える氷底湖が存在していることが確認されており、氷床下湖とも呼ばれている。それらの中でも、氷床下4000mに存在するボストーク湖(Lake Vostok)は、琵琶湖の20倍以上の面積を誇る。
 地表を厚く覆う氷体によって、地中からもたらされる地殻熱が大気中へ直接伝達することを妨げられているため、たとえ氷体表面が氷点下数十度Cであっても、氷体の底面はそれよりはるかに高い温度を保つことができる。さらに、氷体の荷重によって圧力が加えられているために、氷体底面付近の氷の融解点は0℃以下になっており、氷体底面はH2Oが液体として存在できる好条件となる。氷体の底で湖が維持されているのはこのような要因によるものである。
   氷底湖の起源については、氷体の成長・融解過程と密接に関係しているため、個々の事例に則して考える必要があり一概には言えないが、あらかじめ存在していた湖の上に氷体が前進(あるいは成長)したという説や、氷体の下で融解が起こって水が溜まったとする説などが考えられている。つい最近、南極氷床下湖が氷床下で移動していることや、氷流(ice stream)を通じて湖水が排出されているという研究報告もある。
 写真は、アイスランド・ヴァトゥナヨックル(Vatnajokull)氷帽の2つの氷底湖の位置を示す(Photo: Matthew J. Roberts)。手前の矢印(S)が東Skaftar氷カルデラ(ice cauldron)、右の矢印(G)がGrimsvotn氷底湖である。いずれも地熱により底面の氷が融解して生じた湖である。右奥矢印の火山は過去700年間に2回噴火し、カルデラ内の氷の融解により大きなヨコロウプが発生した。(T.Sa.& R.N.)
氷瀑 (ひょうばく、frozen waterfall)

Photo 220
滝あるいは急峻な河川の水が凍ったもの。氷の滝。凍滝(いてだき)とも言う。氷点下の気象条件下にて、水が岩壁の上を流れながら徐々に凍結し、氷の上に氷が生成し、大きな氷の塔あるいは氷の壁が形成される。その成長過程は、つららと類似である。氷瀑は、北海道や本州各地においても冬季に見られる。強固に形成された氷瀑は、アイスクライミング(氷壁登攀)愛好者の登山またはそのトレーニングのためにしばしば利用される。写真に示すアシリベツの氷瀑は落差26mと小規模だが、札幌市内に位置するため、厳冬期には多くの登山者が氷壁登攀の練習に訪れる。氷瀑をアイスフォール(icefall)と言うこともあるが、アイスフォールは氷河の一部で、急傾斜、高流速、かつクレバスの激しい場所を指すことが多い。(R.N.)
氷帽 (ひょうぼう、ice cap)
独立した山の頂上や、北極の島々をおおう帽子状の氷河。氷冠と呼ばれることもある。氷帽は、カナダとロシア北部の北極諸島、スバールバル諸島、およびアイスランドに多くあり、これらの面積を合計すると南極氷床、グリーンランド氷床に次ぐ第3の氷河地域となる。また、氷帽はアフリカの赤道直下のケニア山、キリマンジェロ山にも存在するが、近年その縮小傾向が著しい。写真は、カムチャツカ・ウシュコフスキー氷帽(Photo: T. Shi.)。(R.N.)
氷流 (ひょうりゅう、ice stream)

Photo 158
氷床の中で周囲より流れの速い部分のこと。氷床の表面地形と基盤地形の影響により、氷流に向けて氷の流れが収束し、氷流の流動速度は周囲の氷床より1桁以上大きいことが一般的である。氷流と氷床の境界には露岩が連なるわけではなく、雪氷の表面傾斜が大きく異なることで識別される。氷流のことを単に氷河ともいう。日本の南極観測基地に近い白瀬氷河は氷流である。写真の上流部、急斜面の上側で流れが収束しているように見える部分が白瀬の氷流である(写真手前は棚氷.Photo:T.Sa.)。西南極氷床では、西側のロス棚氷(Ross Ice Shelf)に流れこむ氷流A,B(Whillans Ice Streamとも呼ばれる)、C,D,Eは、アメリカの研究者等によって地上と航空機から詳細に調査された。その結果、氷流BとCは挙動が複雑で、サージ的振る舞いという指摘もあった。(R.N.)
フィルン (firn)

Photo 221
積もってから一夏を経過した2年目以上の雪。ファーンとも言う。氷河の涵養域や氷床では、一般に表層の1年雪の下にフィルンの層が見られる。フィルンの密度は、下限はないが概ね350-550 kg/m3程度、上限は氷との境界の830 kg/m3 である。氷河において融解末期の裸氷域と積雪域との境界線をフィルン線(firn line/limit)と言う。これは概ね平衡線に一致する。融解末期の多年性雪渓(万年雪)は、普通、1年雪はほぼ消滅し、フィルンと氷で構成されているので、このような雪渓(Photo: T. Matsumoto)のことをフィルンと呼ぶこともある。 (R.N.)
吹きだまり (ふきだまり、snowdrift/snow drift)

 

Photos 43 & 44
地形の凹凸や建造物などの風上や風下に形成される雪の堆積物。低温下では風速がおよそ6-7 m/sを超えると雪粒が雪面から飛び立ち、地吹雪(drifting snow)が起こりやすい。障害物の風上や風下の風速が弱まる所では、雪面に落下した雪粒の一部は再び跳躍(saltation)することなく、そこに堆積する。吹きだまりの形態は、障害物の形状、風速、地吹雪濃度などにより多様である。山稜の風下側に成長する雪庇(snow cornice)は、自然界の吹きだまりのうち特異な形状を示すものである。また、雪渓や氷河の上流域は吹きだまりで涵養されることが多い。写真(上)は南極昭和基地の居住棟の風下に形成された吹きだまり、(下)は南極氷床にてブリザードによる吹きだまりに埋まった燃料ドラム缶の橇。(R.N.)
復氷 (ふくひょう、regelation)

Photo 228
氷は圧力が高いと融点が低下する性質があるので、融点付近の温度の氷に他の物体または氷を押しつけ圧力を加えると接触面の氷が融解し、圧力を除くと再び凍結して氷に戻る現象のこと。写真に示す実験は、円柱氷に針金をかけ、3.5 kgの錘を吊り下げた場合であり、針金の下側の氷の融点は-0.06度C程度と見積もられ、常温の室内にて約2時間で針金は氷をくぐり抜け、切断面は完全に氷が再生した。自然現象では、氷河の底面滑りのメカニズムの一つとして、復氷が考えられている。氷河底部の小さな凸起伏の上流側では融点降下で融解し、凸起伏の下流側では融点上昇により再凍結することにより、氷河底面の氷は起伏を乗り越えることができる。なお、スケートが氷の上をよく滑るメカニズムとして、20世紀初頭に復氷(圧力融解)説が提唱されたが、スケートの刃の下の圧力はマイナスの温度の氷を十分融かす程には至らず、この考えは現在は完全に否定されている。(R.N.)
ブリザード (blizzard)

Photo 152
視界が非常に低下する猛吹雪あるいは暴風雪のこと。南極では低気圧の通過によりブリザードが数日続くことがある。一般に気温が上昇し、風が強く、降雪とともに地吹雪が起こり、視界が著しく低下する。日本の南極基地では、視程1km未満、風速15m/s以上の状態が6時間以上継続するとブリザード(C級)と呼んでいる。A、B、Cの3階級の内、最も強いA級ブリザードは、視程100m未満、風速25m/s以上の状態が6時間以上継続するものである。写真は、南極昭和基地における比較的弱いブリザードの光景である(Photo:T.Sa.)。
 日本南極観測隊では、第1次隊(1956-58年)から第49次隊(2007-09年)の間で、大小さまざまな事故はあったが、死亡に至る事故は1960年10月南極基地で発生したブリザード遭難の1件のみである。このブリザードは、当時のレポートによると、平均風速30m/s超、最大風速40m/s超、最悪視界ゼロの大型A級であり、ほぼ4日間継続した。基地の建物から少し外に出て作業をした隊員が戻る方向を見失い、遭難したものである。直ちに何名かの隊員が捜索にあたったが、その内の数名も基地に戻ることができず一晩物陰でビバーク(野営)せざるを得なかった。この事故以降、南極の基地や内陸旅行では、強いブリザードの際は極力屋外に出ない、出る場合はロープ伝いに進む、等の安全対策が講じられている。 (R.N.)
平衡線 (へいこうせん、equilibrium line)

Photo 121
氷河の上で1年間に積もる雪の量(涵養量という)と融ける雪の量(消耗量という)とが等しい点を結んだ線。均衡線とも呼ばれる。この線より上流側は積もる量が融ける量より多いので涵養域、下流側は融ける量が積もる量より多いので消耗域となる。平衡線の位置は、正確には、氷河上に配置した多数の雪尺測定の結果から年々決定される。近似的には、夏の終わりに、氷河上流の積雪域と下流の裸氷域との境界(雪線ともいう)が平衡線に一致する。写真の氷河で、上流の白い部分が積雪、下流の黒っぽい部分が岩屑や土砂で薄くおおわれた氷であり、その境界付近に平衡線が存在している(Photo:T.K.)。平衡線の高度(equilibrium line altitude)をELAと略称することが氷河研究の分野ではかなり一般的となっている。
 ELAは、年々の気象条件あるいは長周期の気候変動(特に、降雪量と気温)により大きく昇降する。したがって、ある氷河やある地域の平衡線とかELAと言うときは、いつの年か、期間か、時代かを明確にしなければならない。このように、ELAは気候の指標と見なすことができるので、氷河変動の研究やモデル実験において、変数や境界条件としてしばしば利用されている。また、定常状態の氷河では、平衡線における氷河横断面を年間に通過する氷の質量は、涵養域の年間正味積雪量の総量に等しい。(R.N.)
ペニテント (snow/ice penitent)

Photo 49
積雪や氷河表面に形成される頂部が鋭く尖った雪や氷の塔または凹凸。スペイン語では、penitente(s) ペニテンテ(ス)という。ペニテントには2種類あり、雪のペニテント(snow penitent)は固い残雪の上に形成され、高さは1mまたはそれ以下である。一方、氷のペニテント(ice penitent)は氷河上にて複数年におよんで成長し、高さは2〜5m程度に達する(高さ約30 mの氷塔の報告もある)。ペニテンツ(penitents:複数形)はヒマラヤ、アンデス、アフリカ等の低緯度かつ標高4,000m〜5,300m付近の高山の氷河で見られる。雪または氷の尖塔は、東西にかなり規則的に並ぶ。雪(氷)塔の先端部は長波長放射と昇華により冷却し、一方塔の谷間は日射が集中し、融解が促進され、凹凸が発達すると考えられている。写真は、アンデス・ピロト氷河周辺(標高4,050m)のモレーン上の雪ペニテンツ。(R.N.)
放射冷却 (ほうしゃれいきゃく、radiative cooling)

Photo 139
よく晴れて風の弱いとき、特に夜から朝にかけて、温度が著しく下がり非常に冷え込む現象。全ての物体はその温度に応じた量の熱を長波長放射(赤外線など)により放出している(温度が高いほど熱の量が多い)。電気ヒーターやスチームのラジエターから離れていても暖かいのは、人間が長波放射を受けるからである。人の身体も長波放射により熱を失っており、暖房のない冷えた室内では、壁・床・天井から来る長波放射が少なく人は寒く感じる。自然の野外では、昼も夜も地面から天空に向けて熱を放出しているが、上空の雲、水蒸気、微粒子などからその温度に応じた熱が地上に放射されている。もし雲がない晴れた夜空だと、非常に低温の上空から僅かな量の長波放射しか来ないので、大地が失う熱の方が圧倒的に多い。そのため、地面が冷え、したがって気温も低下する。これが典型的な放射冷却である。風が吹いていると、地面付近の空気が冷えても、近隣から暖かい空気が流れてくるのであまり冷却しない。写真は、放射冷却により地面が著しく冷え、畑に霜が降りた光景である。(R.N.)
ボストーク湖 (ぼすとーくこ、Lake Vostok/Vostok subglacial lake)

 

Figs. 57 & 58
南極氷床の下に存在する南極最大の真水の湖。この氷底湖(氷床下湖とも言う)は、東南極氷床中央部の南緯77゚30’、東経105゚付近、厚さ3,800-4,000 m の氷の下に存在し、長さは約280 km、最大幅80 km、水深は200-800 m(平均344 m)である。南極氷床の下に融解水の層が存在することは1960年代に予測されていたが、1967年の英米共同による航空機アイスレーダ観測でこれが実証され、氷床下の湖の存在が確認された。以来、2003年までに南極氷床では大小145の氷底湖が発見されている。1987年〜現在(2009年)に至るまで、ボストーク湖および周辺の氷床において、航空機と雪上によるアイスレーダ観測、および人工地震探査により、基盤地形、地下構造、湖の形態と分布など、詳細な知見が得られている。図(上)は、ボストーク湖(薄青色)および周辺氷床の地形図(上が北)である。ボストーク基地(V)は湖の南端の湖の上にある。赤い線は、アイスレーダ観測等の測線を示す(ロシア隊、1998-2008)。調査が進展するにつれ、湖の輪郭や水深の分布のデータが更新されているが、現在はボストーク湖の面積15,690 km2、体積5,400 km3と見積もられている。図(下)は、ボストーク湖の東側近隣の氷底湖(*)における雪上アイスレーダ観測の記録である(ロシア隊、2001)。縦軸が氷の深さ(m)、横軸が距離(km)を示す。Lakeと示した滑らかな直線状の反射エコーの部分が湖である(両図提供: Sergey V. Popov)。氷底湖の水面は、氷の荷重がかかっているので、大気に接した湖のように水平面とは限らない。
 湖の水温は-3゚C前後と推定され、湖の北部は氷厚が大きいため(約4,100m)氷床底面で融解が生じ、湖の南部は氷厚が小さい(約3,700m)ため圧力融解点に達せず、湖水が凍結する環境にあると考えられている。湖の南端のボストーク基地における氷床掘削は深さ3,623 mまで氷コアが採取され、掘削はその深さ(氷と湖との境界より約100m上方)で停止している。氷コアの下部約100mは、湖水の再凍結氷であり、その氷からバクテリア、花粉、海洋性珪藻に加えて、石英、ジルコン等の鉱物も検出された。また、湖を南北に分けるように湖底の山脈と島が確認されたり、湖底には陸性の堆積物が存在することが分ってきた。また、ボストーク湖は完全に閉じた水系なのか、周辺の小さな湖と水脈や「河川」にて連結しているのか等、議論がある。これらの結果から示唆されることは限りなく多彩であり、ボストーク湖など氷床下の湖については、氷河学のみではなく、生物学、地球化学、第四紀学、水文学、地質鉱物学、固体地球物理学など、さまざまな分野において注目されている。 (R.N.)
北極 (ほっきょく、Arctic)

Photo 35
地球の自転軸が地表と交わる地点(北極点)を中心とした地域。白夜または極夜(太陽が昇らない日)が1年の内に1日以上ある地域は、北緯66度33分以北であり、北極圏と呼ばれる。北極には、ユーラシア大陸、北米大陸およびグリーンランドに囲まれた北極海が存在する。北極海に隣接する湾と海峡を含む北極海の面積は1,400万km2で、南極氷床の面積とほぼ同程度である。北極海の大半の地域は、1年中海氷(定着氷と流氷)でおおわれる。温暖化の影響等により海氷域の面積が減少すると、雪氷面と開水面とのアルベド(日射の反射率)の大きな差により、温暖化がますます進行するという正のフィードバックが懸念される。北極海には、カナダ北極諸島、カナダ北部のエルズミア島、ノルウェー北部のスバールバル諸島、ロシア北部のノバヤゼムリャ島やノボシビルスク諸島など多数の島があり、そこには数多くの氷河や氷帽が存在している。写真は、スバールバル諸島から北極海へ流出する氷河の末端(アウストフォンナ氷河.Photo: Bernard Lefauconnier)(R.N.)
ポリニヤ (polynya)

Photo 124
海氷域の中で海水面が露出している場所(Photo:T.Sa.)。ただし、割れ目(crack)や水路(lead)等の直線的な形の開水面は含めない。ロシア語の海氷用語が起源で氷湖(ひょうこ)とも訳される。氷湖には砕けた氷片があったり、新成氷、ニラス(nilas)、板状軟氷でおおわれていてもよい。一方の側が海岸や定着氷に接している場合もある。南極ではウェッデル・ポリニヤが有名。北半球では、ベーリング海のセントローレンス・ポリニヤ、バフィン湾のノースウォーター・ポリニヤ、北大西洋のノースイーストウォーター・ポリニヤなどが知られている。オホーツク海北部でも広域が薄氷におおわれたポリニヤが存在している。ポリニヤ域では、海洋と大気の熱交換が盛んであり、海氷と気候を考える上で重要な地域である。(H.E.)
ホワイトアウト (whiteout)

Photo 242
視界の全方向、上下が真っ白となる現象。単に視程が低い状態とは異なる。地面が白い雪で、全天が低い薄い雲におおわれているとき、あるいは日射がありながら降雪や地吹雪が激しいときに起こる。日射が、雪面、雲、大気中の雪結晶で反射し、地上の人にとっては四方八方からくる散乱光の強さがほぼ等しくなり、したがって上下左右の濃淡がなく、かつ地物の影が生じず、天と地の認識が困難となる。まっすぐ立つことさえ難しく感ずる。極地の積雪上で起こりやすい。ホワイトアウトの景色を写真に撮ろうとすると、全面真っ白な状景となるが、掲載の写真は地物や雪面が判別できるので非常に弱いホワイトアウトである(スバールバル・ロングイヤーベーンにて.Photo: Monica Sund)。(R.N.)
迷子石 (まいごいし、erratic)

Photo 109
氷床などの大規模な氷河によって運搬・堆積した岩屑中には、その近縁に分布する地質とは異質の岩屑が含まれる場合がある。それらの中でも比較的大きな礫を、親元からはぐれた子供に例えて迷子石と呼ぶ。18世紀末、石灰岩からなるジュラ山地に、そこから遠く離れたアルプスを起源とする花崗岩の巨礫があることが認められたことに始まる用語であるが、当時は、過去に氷河が広く地表を覆った時代があったことは一般には認められておらず、流氷や伝説の洪水によって遠くまで運ばれたと考えられていた。氷期の概念が確立した19世紀以後には、迷子石の分布を本来の産出地へと追跡することによって、氷床の拡大方向を復元する手段として用いられるようになった。近年、最終氷期の終わり頃に氷床周縁に形成された巨大な湖が決壊したことが北米やシベリアで確認されており、その洪水によっても巨礫が遠隔地まで運搬されている。これらの異地性の礫も、18世紀当時とは別の意味で、洪水起源の迷子石とよばれている。(T.Sa.)
万年雪 (まんねんゆき、firn/perennial snow patch)

長い年月の間、融けきらずに残る雪または雪渓のこと。雪氷学の分野では多年性雪渓という語を使うが、越年雪渓やフィルンとも言う。北海道の大雪山や本州の北アルプスには多年性雪渓が多数存在するが、山岳氷河に比べ規模が格段に小さいので、2、3年少雪と暑夏が続くと消滅しやすい。例えば、大雪山の「雪壁雪渓」は1991年秋に非常に小さくなり、富山県剣沢の「はまぐり雪」(Photo: T. Matsumoto)も1998年に消失しかけた。確実なデータはないが、日本の山の万年雪の寿命は一般的には20,30年以内と考えられる。特別な事例として、立山の内蔵助雪渓における1988/89年の掘削調査から、最底層(深さ10数m)の氷は1700〜1800年前と推定された。(R.N.)
みずほ基地 (みずほきち、Mizuho Station)

Photo 63
昭和基地の南東約270 kmの内陸氷床上の観測基地。1970年に第11次南極越冬隊により建設された日本の2番目の基地である。1971年から1986年まで少人数が越冬し、深さ700 mの雪氷掘削や、気象、雪氷、オーロラ等の通年観測が行われた。基地の施設としては、居住棟、観測棟などの建物約100平方mがあるが、年々の積雪により全て雪面下に埋没している(写真)。地下の雪洞部分には、観測室、掘削室、機械室、倉庫、試料保管室など、十分なスペースが作られている。現在は、観測基地としては使用されておらず、主に昭和基地からドームふじ基地への中継基地として利用されている。(R.N.)
ムーラン (moulin)

Photo 53
氷河表面にて融解水が集まって流れ込む穴。融解期の初めの頃は細い縦の管だが、水の流入による熱で徐々に穴が大きくなり、夏期には直径2-3m、深さ20-30mにも達する。ムーランの上部は鉛直に近いが、深部では湾曲したり、らせん状ともなる。ムーランの底部は、氷河内部の水管、水脈につながり、最後は氷河底面に達する。また、一部の温暖氷河では、ムーランが氷河内部の貯水層や湖(englacial lake)に連結しており、スピリオロジスト(speleologist;洞穴探検家)やスキューバダイバーが探検することがある(Photo:E.Isenko)。(R.N.)
メディアルモレーン (medial moraine/median moraine)

Photo 169
氷河が支流と合流する地点の露岩やモレーンから出発し、氷河の流動方向に沿って末端付近まで伸びる氷河上のモレーンの帯を指す。メディアンモレーンとも言う。氷河の合流点から氷河に取り込まれた大小の岩屑や土砂が、氷河の流れによりベルトコンベヤーの様に下流に運ばれる。モレーンは氷河表面のみを被うこともあるが、氷河の内部まで鉛直下方に連なって含まれていることもある。氷河表面のメディアルモレーンは氷河の流線(stream line)に一致し、その曲線の接線が氷河の流動方向を示す。写真は、パタゴニア南氷原から湖に流出するウプサラ(Upsala)氷河であり、本流(U)と支流のCono氷河(C)およびBertacchi氷河(B)と合流する地点から氷河末端まで伸びるメディアルモレーンが見られる(Photo: Pedro Skvarca)。(R.N.)
モレーン (moraine)

Photo 88
氷河によって運搬された岩屑によって作られた堆積地形。日本語では堆石堤と訳されるが、原語のまま用いられることが多い。この語は氷河によって運搬中・運搬後の岩屑そのもの(ティル:till)に対しても用いられることも多いが、物質と地形とは区別して用語を用いるべきである。氷河との位置関係によって、氷河の末端部に形成されるターミナルモレーン(端堆石堤)、側部に形成されるラテラルモレーン(側堆石堤)、複数の氷河の合流部およびその下流部に形成されるメディアルモレーン(中央堆石堤)に区分されるほか、ターミナルモレーンの内側には、氷河の底で生産・運搬・堆積したbasal tillの堆積面であるグランドモレーン(底堆石原)やハンモッキーモレーン(ハンモック堆石)が形成される。また、氷河が後退時に断続的な停止と後退を繰り返した場合、小規模なターミナルモレーンが連続的に形成される場合がある。これを特にリセッショナルモレーンと呼んでいる。このほかに、氷河の拡大にともなって生じる氷河前面の圧力によって、氷河前面の堆積物(ティルやアウトウォッシュ)が押されて変形することにより、堆石堤状の高まりを形成したものをプッシュモレーンと呼んでいる。
 モレーンは氷河の消長にともなって形成されるため、氷河地形発達史を編年する際の重要な指標となる。氷河の分布範囲を確定するとともに、放射性炭素年代測定法や宇宙線照射年代法、火山灰年代測定法などによりモレーンの形成年代を測定することによって、氷河の消長年代を決定することに役立つ。
 写真は、南米パタゴニア氷原エクスプロラドーレス氷河のターミナルモレーンである(2002.12.22)。氷河側の左側が急峻、右側の外側が緩やかな非対称な形状を示している。形成年代は小氷期(14〜17世紀頃)とする説と1400〜1000年前とする説とがある。(T.A.)
モンスター (snow monster/ice monster)

Photo 128
着雪と着氷との混合物であり、樹木の全体が雪と氷で被われたもの。その形態から、俗にモンスター(monster、怪物)、スノーモンスター、アイスモンスターと呼ばれている。蔵王山や八甲田山等の冬山で一般に樹氷と呼ばれているものは、多くの場合、雪が水(凍結していない雨粒や雲粒)で糊付けされた着雪と着氷との混合物であり、モンスターである。写真は氷ノ山のモンスター(撮影:田中修一)。 (R.N.)
有効圧力 (ゆうこうあつりょく、effective pressure)

Photo 174
氷河学においては氷の上載圧力と水圧の差で定義され、氷河底面で実質的に発生している圧力をさす。底面水圧がゼロであれば、氷河に作用する重力によって発生する圧力と等しくなる。水圧が上載圧力よりも大きくなると、理屈の上では、氷が水に浮くように氷河が水に持ち上げられる。摩擦力が接触面の鉛直応力に依存することから、底面すべり現象において重要な役割を果たす物理量と考えられている。また、氷河底面の堆積物を上から押し固める力となるため、堆積物の機械的特性にも影響を与える。氷河底面の水圧は、底面に達する掘削孔の中に圧力センサーを挿入して測定する(写真)。(S.S.)
雪 (ゆき、snow)

Photo 205
雪には、大きくわけて以下の3つの意味がある。1)雪が降ること、降雪現象(例:明日は曇のち雪)。2)雪粒または雪結晶(例:帽子に雪が付く)。3)積もった雪、積雪(例:一面雪におおわれた)。3番目の意味の場合、積もったばかりの新雪(密度、約50 kg/m3)が圧縮されて固い高密度(830 kg/m3)になるまでを雪と定義している。密度がこれ以上になると、通気性がなくなり、氷と呼ばれる。英語のsnowも、上記1)、2)、3)の意味を持つ。雪は、日本全国の広い地域でユキと発音されているが、東北地方から関東の一部ではユギ、新潟・長野ではヨキ、島根・広島ではイキとも言われる。(R.N.)
雪えくぼ (ゆきえくぼ、snow dimple)

Photo 93
融雪や降雨により、積もって間もない雪面に規則的にできたくぼみ。ひとつひとつのくぼみの下は水みち(水が集中して浸透する経路)になっている。密度が小さくかつ厚い積雪層に、融雪や降雨の水が浸透し、帯水層が形成されることがゆきえくぼの発生条件である。帯水層に沿って凹部へ水が移動、集中し、保水能力を超えて下方へ浸透することによって水みちが形成され、くぼみ(ゆきえくぼ)が発達する。その時々の積雪の状態によってゆきえくぼの波長(発生間隔)がきまる。(Y.T.)
雪形 (ゆきがた、yukigata)

Photo 98
融雪期の山の斜面には早く雪が消えて黒く見える部分と、残雪の白い部分とが様々な模様を作り出している。その白い部分または黒い部分の形を人や動物、道具などに見立てて呼ぶようになったものを雪形という。たとえば、妙高山に馬の形の雪形“はねうま”(写真)が現れると、もう雪は降らないから農作物の種まきをしてもよいとふもとの農家で言い伝えられてきたように、本来は農事暦や自然暦として利用され、何世代にもわたって伝承されてきた。そのような雪形が日本には約300あるといわれている。   雪形の主な成因は、急峻な斜面のように地形によって雪が積もりにくい所と雪が吹き溜まって周囲より多く積もる所があり、積雪が消える時期にずれが生じることである。そのため、毎年同じ場所に同じ形の雪形が現れるが、その年の積雪量や融雪期の気象条件によって現れる時期は違ってくる。雪形の言い伝えはこのことを経験的に言い表わしていたといえる。外国語には“雪形”に対応する単語が見あたらないので、tsunamiやtyphoonのように“yukigata”という用語がそのまま国際的に通用するよう、日本固有の雪国文化である雪形を海外へ紹介する活動が始められた。一方、最近の日本では雪形の伝承が途絶え、忘失されつつあることが危惧されている。自然観察の教材として、あるいは観光資源として雪形の新しい活用が始まっている。
 ところで、“はねうま”が写真のどこにいるかおわかりでしょうか? 左上方へ向かって駆け上がる黒い馬です。どうしても見つからない方は本webのPhoto. 99を探してご覧下さい。(Y.T.) 
雪結晶[南極の] (ゆきけっしょう、Antarctic snow crystal)

Photo 76
雪結晶とは水(H20)の水蒸気(気体)が昇華凝結により形成された水の固体である。中谷宇吉郎による札幌での先駆的な研究(昭和7年から開始)により、雪結晶形成時の温度と湿度により雪の形が変わることが見いだされた。温度領域が-2℃から-25℃での雪結晶の形は、中谷ダイヤグラムと呼ばれる図にまとめられている。一方、南極のドームふじ基地は1年を通して気温が低く、国内とは異なる形の雪結晶が多数降っている(ドームふじの年間平均気温は、-54.4℃。最低気温は-79.6℃、最高気温は-18.6℃)。1年間観察した結果、砲弾集合と呼ばれる形の雪結晶が最も多く観察された(写真)。これは先端部が尖った砲弾(ピラミッド面から形成)と中身がない骸晶角柱(プリズム面から形成)から構成されており、砲弾部で多数の結晶がつながって形成されている(写真では6個の単砲弾結晶がつながっている)。ドームふじでは、この他に骸晶角柱、角柱、針状角柱が観察された。なお、針状角柱は清水弘により1961年冬季に南極Byrd基地にて初めて観察され、long prismと名付けられているが、最近の論文ではShimizu crystalと記述されることもある。(T.K.)
雪尺 (ゆきじゃく、snow stake/scale/snow depth gauge)

Photo 130
積雪の深さを測定するための目盛付の杭または棒。気象庁の標準型は、7.5cm角の柱に1cm間隔の目盛をつけたものである。雪尺の材質、太さ、高さなどは、いかなるものでも差し支えなく、状況と目的に応じて用意する。一般的には、積雪が始まる前に、雪尺を地面から鉛直に設置する。背の高い雪尺を長期間傾かないように設置することが難しい場合は、樹木等に沿わせる方法もある(写真は高さ3.5mの雪尺)。氷河では、竿やポールを、よく締まった硬い雪まで差し込むか、ドリルで空けた穴に設置する。目盛付でなくても、雪氷面から竿(ポール)の頂部までの長さを物差し(スケール)で測定する。この場合は、2回の測定値の差に、表面の雪氷密度を乗ずれば、その期間の正味涵養量または消耗量が得られる。(R.N.)
雪まりも (ゆきまりも、yukimarimo)

Photo 75
微細な針状の霜結晶(長さ1mm、直径0.01mm程度)が多数絡み合ってできた直径5mm〜30mm程度の球形の霜のかたまり。1995年に南極のドームふじ基地にて初越冬観測を行った際に発見された(亀田)。形状が阿寒湖のマリモに似ていることからこのように名付けられた。雪まりもは、気温が-60〜-72゚C、表面雪温が-64〜-72゚C、平均風速は0.5〜4m/sの時に観察された。雪まりもが形成される前には、雪面は針状の霜結晶で「綿」のように覆われていたので、この表面霜が風でまくられ雪面を回転移動する際に球形化して、雪まりもが成長したと考えられる。雪面のちょっとした小さな窪みに多数集まっていることが多い。
 なお、雪まりもと同様な球形の霜のかたまりは、アムンセンが1911年9月にロス棚氷上で、サイプルが1957年に南極点で観察し簡単に報告されているが、形成条件やその写真などはドームふじ基地の観測結果が初めてである。(T.K.)
雪虫 (ゆきむし、cold-tolerant insects)

Photo 137
雪の上で生活する昆虫または小動物のことである。日本で普通雪虫と言われるのはユキクロカワゲラ(セッケイカワゲラ)の仲間の昆虫をさすことが多い。ユキクロカワゲラは冬から春先にかけて積雪上を歩いているのを目にすることができる。本州の日本海側の積雪地に広く分布する。種類も数種類いるとされるが、生態もふくめまだわかっていないことが多い。日本の積雪上には、ユキクロカワゲラのほかにも、トビムシ、クモガタガガンボ、ゴミムシなど様々な雪虫が生息している。さらに、顕微鏡を用いれば微小な動物として、ワムシやクマムシなども積雪中に生息しているのが確認できる。世界各地の氷河や積雪でも、これらの雪虫のほかコオリミミズ、ヒョウガソコミジンコなど、さまざまな雪虫が確認されている。江戸時代の名著「北越雪譜」にも雪蛆(せつじょ)という越後の雪中の虫が紹介されている。なお、北海道で一般にユキムシとよばれるものは、晩秋に雪のように舞うアブラムシの仲間のことで、ここでいう雪虫とは全く異なる。(N.T.)
羊背岩 (ようはいがん、roche moutonnee/ mammilated rock surface/whaleback)

Photo 103
氷河の流動方向に対して上流側に緩斜面があり、下流側が急斜面となっている氷食岩盤地形。羊群岩、氷食円頂丘ともいう。岩盤は、氷河の底で氷や氷に含まれる岩屑によって浸食されるが、突出した部分は、氷河の流動になじむように全体に丸く整形される。その際、動力学的に氷体の抵抗が大きい上流側は丸くなり、その表面はなめらかに研磨される。一方、下流側は、氷体の動きによってブロック状にはぎ取られて階段状になる。南極・宗谷海岸の露岩域にみられる巨大羊背岩を写真に示す。
 複数の羊背岩が集合的に分布している場合もあり、その様子がさながら羊の背が群れているかのように見えることから、これが語源であると誤解されているが、正確にはウィッグと呼ばれる羊毛のカツラを指すフランス語が語源である。英語でもフランス語のロッシュ・ムトーネ (roche moutonnee)がそのまま使われている。また、山岳用語の多くをドイツから仕入れた日本では、ドイツ語のルントヘッカー (Rundhocker)で呼ばれることも一般的。日本では、北アルプスの黒部五郎岳や日高山脈の幌尻岳のカール底でみられるものが有名である。なお、緩急斜面の位置が羊背岩とは逆の氷河地形もあり、ドラムリン(drumlin)と呼ばれている。(T.Sa.)
ヨコロウプ (jokulhlaup)

Photo 46
氷河底面からの出水による洪水のこと。元々は、アイスランドの火山を覆う氷帽(Vatnajokullなど)にて、氷の下の噴火により引き起こされた氷河出水洪水のことを指した。今日では、語義が拡張され、氷河底湖や氷河内に貯えられた水の突然出水による洪水をも含む。アイスランド語のjokulhlaup(oの上にはウムラウト記号が付く)の発音に近いと思われる表記として、ここではヨコロウプとしたが、ヨックルフロウプとも聞こえる。アイスランドの火山の氷帽では、地熱のために氷帽の下の氷は常に融けており、数年も経つとその融け水は深さ100mにも達する氷底湖となる。この水を保持できなくなると、氷帽の一部が決壊してヨコロウプが発生する。数年程度の間隔でほぼ周期的に起こることが多い。
 ヨコロウプは、氷底水路の融解による拡大と浮力により徐々に流出が進むので、ハイドログラフ(流出量の時間変化曲線)は1、2週間におよぶ緩やかな上昇の後、ピークに達してから急速に低下することが特徴的である。写真は、かつてしばしばヨコロウプを起こしたことが知られているVatnajokullから南へ流出する氷河。jokullとは、氷河のこと(oの上にはウムラウト)。(R.N.)
裸氷 (らひょう、bare ice)

Photo 198
氷河や氷床の表面に露出した氷。そのような氷の地域を裸氷域と言う(Photo: P.Skvarca)。裸氷は、氷河の上流域に積もった雪が圧縮されて氷なり流動の結果氷河表面に現れた場合と、その場所に積もった雪が融解・凍結により氷に変化した場合とがある。裸氷域の氷は青く見えることがあり、そのような氷を青氷(blue ice)と呼ぶことがある。気泡の非常に多い氷は白く見え、土砂混じりの氷は黒く見える。きれいな氷が青く見える理由は、氷が赤い光を青い光よりわずかに多く吸収することによる。(R.N.)
流線[氷河の] (りゅうせん、flow/stream line)

Photo 215
流れている流体中の仮想的な曲線で、その線上の各点に引いた接線がその点における流動方向に一致するものを、流線と言う。氷河や氷床の表面に描いた流線を表面流線、氷体内部の流線を内部流線と言う。氷河・氷床上の多点にて流動速度を測定すると、流線の空間分布が得られる。氷河の表面流線は、基盤地形とは関係なく、表面の等高線にほぼ直角方向へ向かう。 写真の氷河の右半分(左岸側)はウプサラ氷河の本流であり、隣の支流コノ氷河との境界、および右岸側の支流ベルタッチ氷河との境界に沿って氷河末端まで伸びるメディアルモレーンが明瞭である(Photo: Pedro Skvarca)。このモレーンの岩屑は、それぞれの合流点の露岩域から供給されているので、流れの中の一点から連続的にマーカー(粉、液)を注入したことに相当するため、モレーンの連なりは流脈(streak line)である。定常流では、流脈、経路線(軌跡)、流線の三者は一致し、同一の線となる。氷河は必ずしも定常状態にあるとは言えないが、一般に短時間内に流れの状態が大きく変化することはないので、メディアルモレーンの帯は表面流線とみなすことができる。(R.N.)
流動[氷河の] (りゅうどう、glacier flow)

Photo 125
流れるということは液体の特徴的な性質であるが、固体である氷河も重力の作用を受けて非常にゆっくりと流れる。この現象を氷河の流動という。氷河の上流に積もった雪は、流動により長い年月をかけて下流に運ばれる。南極の氷床や山岳氷河は、年間数mから1kmの速さで流動している。このような氷河の流動現象は、氷河の氷自身が(塑性、そせい)変形すること、および氷河と基盤との間の滑りの二つに大きく分けられる。さらに氷河底部に凍結していない細粒の岩屑(ティル)層が存在すると、この層の変形も氷河流動に寄与する。すなわち、氷河表面で観測される流動速度は、氷の変形、氷河の底面滑り、ティル層の変形による流動の和である。
 氷河の流動速度の観測には以下のいくつかの方法がある。1)露岩上の不動点から氷河上の測点までの距離と角度を測定する三角測量(写真)、2)氷河上の測点と不動点におけるGPS(global positioning system)の同時測定、3)氷河上の大きな岩、土砂の塊、クレバス等の氷河構造を目標として、ある期間(普通は1年)をおいて撮影された空中写真の解析、4)人工衛星の合成開口レーダ(SAR)による、氷河上の同一地域の繰り返し観測から得られる干渉解析(interferometry)。(R.N.)
流動モデル[氷河の](りゅうどうもでる、flow model)

Fig. 175
氷の性質や、さまざまな氷河流動理論を用いて、氷河や氷床の流動状態を計算する数式や数値計算プログラム。取り扱う氷河形状の複雑さ、仮定する流動理論、計算の方法などによって、様々な種類に分類される。例えば氷河形状に関しては、氷河を一本の線と仮定した1次元モデル、氷河の縦断面や横断面を扱う2次元モデル、複雑な氷河形状を全て考慮した3次元モデルなどが存在する。流動理論に関しては、氷の機械的性質をどう仮定するか、氷河内に働く力をどこまで正確に扱うか、底面流動をどう計算するかなど、様々なアプローチがある。南極やグリーンランド氷床など融解温度以下の氷を持つ氷河では、熱力学モデルと組み合わせて氷の温度を計算することが多い。また質量収支モデルや気候モデルと組み合わせて、氷河・氷床の変動を再現および予測する数値実験に用いられる。図は南極氷床の一部に適用された流動モデルの計算結果で、氷床表面と底面、およびある鉛直断面内での流動速度(左図)と氷の温度(右図)の分布を示す。(S.S.)
流氷 (りゅうひょう、pack ice)

Photo 157
海流や風の作用により漂流している海氷のこと。海氷は、岸や棚氷に接して動かない定着氷(fast ice)と流氷の2つに大きく分けられる。写真は、南極オングル島周辺にて、海氷が多数の氷盤に割れて、流氷となった状況を示す。流氷の海は、半日程度の強風により、開水面になったり密氷野となったり、著しく景観を変化させる。北海道のオホーツク海沿岸でほぼ毎冬季見られる流氷は、オホーツク海北部で生成された海氷が流れてきた物である(R.N.)。
レーダ高度計 (れーだこうどけい、radar altimeter)

Photo 37
電波が測定器と地表との間を往復する時間を計測することにより、地表面の標高を計測する装置。人工衛星や航空機に搭載されている。用いられるマイクロ波帯の電波は雲を透過するため、悪天であることが多い極域でも利用価値は大きい。一方、電波を用いるとビームを絞ることが難しいため、地表面での電波照射面積が大きくなる。そのため、傾斜の強い氷床沿岸部や規模の小さい山岳氷河を観測すると誤差が大きくなる。この欠点を補うため、近年では電波の代わりにレーザ光を使った高度計(レーザ高度計)も人工衛星搭載されており、両者は補完的に使われている。レーダ高度計のデータは、南極氷床、グリーンランド氷床全体の地図作成に用いられた。また、観測を数年にわたり継続し繰り返し標高を計測することにより、氷床の(雪氷の)質量収支の推定も行われてきた。写真はスバールバル諸島の氷河における航空機レーダ高度観測(ドイツAWI)の光景である(Photo: Jon Ove Hagen, April 2004)。(K.M.)
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[執筆者(所属)]
R.N. 成瀬廉二(NPO法人 氷河・雪氷圏環境研究舎)
T.Sa. 澤柿教伸(北海道大学大学院地球環境科学研究院)
N.T. 竹内望(千葉大学大学院自然科学研究科)
S.S. 杉山慎(北海道大学低温科学研究所)
T.A. 青木賢人(金沢大学文学部)
T.Y. 山本竜也(気象庁寿都測候所)
T.Shi. 白岩孝行(北海道大学低温科学研究所)
H.E. 榎本浩之(国立極地研究所)
T.K. 亀田貴雄(北見工業大学)
S.Y. 山口悟(独・防災科学技術研究所)
A.S. 坂井亜規子(名古屋大学大学院環境学研究科)
K.M. 松岡健一(ノルウェー極地研究所)
Y.I. 飯塚芳徳(北海道大学低温科学研究所)
Y.T. 竹内由香里(森林総合研究所)
K.K. 紺屋恵子(独・地球環境観測研究センター)
H.Y. 矢吹裕伯(独・地球環境観測研究センター)
K.Y. 横山宏太郎(中央農業総合研究センター)
T.I. 市谷年弘(鳥取地学会)

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